STOP 日本の化石燃料融資にNO!

豪先住民族らがガス採掘事業への融資検討中止を求めて韓国政府を提訴

本プレスリリースは、Jubilee Australia Research Centre(豪州)、Environment Centre NT(豪州)、Solutions for Our Climate(韓国)が英語で発表[1]したもので、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)が日本語に翻訳しました。なお、豪バロッサガス開発事業には日本の電力会社であるJERAも出資しており、日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)が融資を行っています。

2022年3月24日

プレスリリース:
豪先住民族らがガス採掘事業への融資検討中止を求めて韓国政府を提訴

豪州ノーザンテリトリーに位置するティウィ諸島の伝統的所有者が、韓国政府に対してバロッサガス開発事業への融資検討の差し止め請求を行いました。

ティウィ諸島の伝統的所有者である先住民ティウィ族は、同事業に関して協議が行われておらず、彼らが司法権を有する海域に300kmのガス輸送パイプラインが設置されることについて、十分な情報が提供された上での自由な事前の合意(FPIC)はしていないと述べています。

本法的措置により、韓国政府は輸出信用機関である韓国輸出入銀行(KEXIM)および韓国貿易保険公社(K-SURE)を通じて、バロッサガス開発事業に対して約7億米ドルの融資を行うことができなくなる可能性があり、同事業全体の資金繰りが危うくなる可能性があります。

バロッサガス開発事業は生産されるガスよりも多くの温室効果ガスを排出

本差し止め請求は、化石燃料事業への公的支援に対する気候変動訴訟[2]が増加する中で行われ、それらの訴訟の中には、韓国電力公社(KEPCO)の豪州での炭鉱拡張に対する環境NGOによる歴史的勝利[3]もありました。環境NGO[4]はまた、モザンビークの大規模なLNG事業に対する英国政府の融資決定に対しても訴訟を起こしています。

このような法的措置は、化石燃料からの脱却という国際的な声を反映しており、これは、他国の化石燃料事業への公的支援を終了するという昨年のCOP26期間中のコミットメント[5]でも見られました。このコミットメントに参加しなかった豪州、韓国、日本は全て、現在バロッサガス開発事業に関与しています。(訳者補足:本事業に対しては日本の公的金融機関である国際協力銀行も融資を行っています)

バロッサガス開発事業は、豪州において最も汚れた海洋ガス田事業であり[6]、年間1,560万トンの温室効果ガスを排出すると見込まれています。これを支援することは、2050年までにカーボンニュートラルを目指すとした豪州および韓国の公約と矛盾します。

Environment Centre Northern TerritoryのエネルギーキャンペーナーであるJason Fowlerは、「国際エネルギー機関が、壊滅的な気候変動を回避するためには新規のガス事業を進める余地はないと指摘している中、公的金融機関がこの汚れた化石燃料事業を支援することは無謀で無責任です」と述べています。

土地の伝統的所有者ティウィ族はバロッサガス開発事業に反対

ティウィ諸島は、その豊かな生態系から重要保全地域に指定され、生物多様性に恵まれた場所として知られています。しかし、バロッサガス開発事業に伴うガスパイプラインは、オーシャンショールズ海洋公園とティウィ族にとって非常に重要な海域の一部を通過する計画です。

ガスパイプラインの建設は、広範囲にわたる海底かく乱や、深刻な騒音と光害を引き起こし、絶滅危惧種のウミガメを絶滅させてしまうなど同海域の海洋生態系に深刻な被害をもたらします。

土地の伝統的所有者であるティウィ族であり、本件の原告の1人であるFrancisco Babuiは「パイプラインの敷設予定地はフォークロイ岬に近すぎる位置にあります。その海域には多くのウミガメやジュゴンが生息するサンゴ礁があります。ウミガメはその海辺で卵を産み、私たちはその地域に狩りに行きます。私たちはその海岸線を露営や漁獲に利用しています」と述べています。

Babuiはまた、「乾季には毎週子どもたちを連れて行きます。子どもたちに私たちの文化や価値観を教えます。子どもたちに重要な食料と探し方を教えます。私はその海辺で父と祖父から同じように教えられました」と話しています。

局所的な被害が想定されるにも関わらず、同事業に関する協議の記録にあったのは、Tiwi Land Councilへの、メール2通と未応答の電話1回だけでした。その後、豪州国家海洋石油安全環境管理庁(NOPSEMA)は協議プロセスが完了したと見なし同事業を承認しました。

バロッサガス開発事業は2004年より計画されていましたが、ティウィの人々がこの計画を知ったのはつい最近だといいます—ガス田の掘削工事が今年開始される予定ですが、そのたった数ヶ月前です。

ティウィの土地の伝統的所有者Jikilaruwu族で本件の原告の1人であるDaniel Munkaraは「Santos(訳者補足:Santosは同事業の最大出資企業、同事業には日本の電力会社であるJERAも出資)は私たちの海岸に沿ってガスパイプラインを建設する計画を完全には説明していませんでした。2018年にパイプラインについて簡単に説明され、私たちは同事業に反対しました。彼らはパイプライン建設は行わないと話していました。そして今、私たちは彼らが私たちを裏切ったことを知りました。Santosは私たちの合意なしに私たちの海域にパイプラインを敷設しようとしています」と話しています。

ティウィの人々は反対の声を上げており[7]、先住民族の権利に関する国連宣言で定められている、影響を受ける先住民族の、十分な情報が提供された上での自由な事前の合意(FPIC)が得られていない状況です。

Munkaraはまた、「オーストラリアの法律とアボリジニの伝統に基づいて、Jikilaruwu族はガスパイプラインが通過する海域の所有者です。私たちがその土地における意思決定者です」と述べています。

化石燃料事業における拡大する公的支援の役割

Jubilee Australia Research Centreの調査担当であるDina Hopstad Ruiは「公的支援は、バロッサガス開発事業のようなリスクの高い事業を遂行させる要となることがよくあります。公的支援なしでは多くの事業が実現しないでしょう」と述べています。実際に、豪州の化石燃料産業は、過去10年間に海外の公的金融機関から化石燃料事業に対して360億豪ドル[8]を超える支援を受けています。

さらにRuiは「ほとんどの人に知られていませんが、世界中の政府は、納税者によって支えられている補助金を化石燃料企業に密かに注ぎ込むために、KEXIMやK-SUREなどの輸出信用機関を利用しています」と述べています。

韓国のKEXIMとK-SUREは、過去10年間に、海外の化石燃料事業に対してすでに1,180億米ドルの支援を行っています。これには、バロッサガス開発事業にすでに供与された1億9,600万米ドル(2億6,100万豪ドル)も含まれます。

パートナーシップをさらに強化するために、Santos、SK E&S、およびK-SUREは先月、炭素回収貯留(CCS)設備を共同開発するための覚書(MOU)[9]に署名しました。

しかし、エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)が最近発表したレポート[10]において、事業出資企業による現在のCCS計画は効果がなく費用もかかることが示されています。仮に計画されているCCSを設置したとしても、バロッサガス開発事業は依然として世界で最も汚染度の高いガス事業の1つです。

現在、SantosとSK E&Sは、CO2を圧縮して処理し900 km以上の距離を輸送することを計画しています。この過程によって、CO2処理および圧縮のために必要な発電用の燃焼により追加の温室効果ガス排出が想定されています。

Solutions for Our Climateの調査担当であるDongjae Ohは「CCSを設置したとしても、世界で化石燃料資源を新たに開発し続けるカーボンバジェットはこれ以上残されていません」と述べています。また「韓国政府はティウィの伝統的所有者の声に耳を傾け、海外の僻地のコミュニティを搾取するグリーンウォッシング・イニシアティブを支持することは止めなければなりません」と話しています。

バロッサガス開発事業について知った後、Babuiが述べたように、ティウィの伝統的所有者は彼らの伝統的な領域を守るために声を上げ続けてきました。

「私たちはこの差し止め請求が成功し、バロッサガス開発事業にこれ以上融資が提供されないことを願っています。融資を行う者がいれば、私たちも彼らと戦う準備ができています。私たちは同事業について協議の場が提供されるべきでした。彼らが私たちと対面で話をしたくないのであれば、私たちは反対し続けます。私たちは同事業が進められてほしくないのです。」

本件に関するお問い合わせ先

<日本語でのお問い合わせ>
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、田辺有輝
tanabe@jacses.org
<英語でのお問い合わせ>
Naish Gawen, Communications Officer, Environment Centre NT, +61 439 231 122 naish.gawen@ecnt.org
Dina Hopstad Rui, Campaigns Director, Jubilee Australia, +61 439 131 308 dina@jubileeaustralia.org
Euijin Kim, Communications Officer, Solutions for Our Climate, euijin.kim@forourclimate.org

キャンペーン情報

ストップバロッサガスキャンペーンはSolutions for Our Climate (SFOC)、Jubilee Australia Research Centre、Environment Centre NTと「環境・持続社会」研究センター (JACSES)による国際キャンペーンです。キャンペーンについて詳しくはこちら:www.stopbarossagas.org

発出者情報

Jubilee Australia Research Centre (https://www.jubileeaustralia.org/) Jubilee Australia Research Centreは、豪州企業や政府機関の影響を受けるコミュニティの、正義を推進するための調査と政策提言に取り組んでいます。私たちは化石燃料輸出への公的支援を終了させるために活動している豪州の主要な団体です。

Environment Centre NT (https://www.ecnt.org.au/) Environment Centre NT (ECNT)は、ノーザンテリトリーの環境団体です。1983年以来、私たちはノーザンテリトリーの環境保護活動を行っています。ECNTは、ノーザンテリトリー特有の景観と生物多様性の保護を提唱しています。これには、土地の開墾や採掘活動終了後のリハビリテーションに関する法律を含む環境法の強化への活動が含まれます。

Solutions for Our Climate(https://www.forourclimate.org/)Solutions for Our Climate(SFOC)は韓国を拠点とする団体で、より強力な気候変動政策と脱化石燃料社会への移行を提唱しています。 SFOCは、エネルギーおよび気候政策関連の経験を持つ、法律や経済、金融、環境の専門家が率いており、政策立案者と緊密に連携して活動しています。

脚注

[1] https://jubileeaustralia.org/news/latest-news-post/tiwi-larrakia-traditional-owners-south-korea-court-gas-project
[2] https://www.theguardian.com/environment/2022/feb/12/the-environmental-activists-bringing-the-climate-crisis-to-the-courtroom
[3] https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-02-24/fight-that-stopped-corporate-giant-shows-coal-miners-in-retreat
[4] https://friendsoftheearth.uk/climate/court-appeal-hear-mozambique-gas-plant-legal-challenge
[5] https://ukcop26.org/statement-on-international-public-support-for-the-clean-energy-transition/
[6] https://ieefa.org/ieefa-santos-barossa-gas-field-emissions-create-major-risks-for-shareholders/
[7] https://www.sbs.com.au/news/article/why-these-tiwi-islanders-are-worried-about-one-of-australias-newest-gas-projects/bid8gql88
[8] https://www.acf.org.au/fossil-fuel-pushers
[9] https://www.santos.com/news/santos-and-sk-es-sign-mou-to-develop-ccs-projects-in-australia/
[10] https://ieefa.org/ieefa-australia-even-with-a-duplicate-pipeline-and-ccs-emissions-from-santoss-proposed-barossa-project-remain-the-same/