- 1.石炭火力発電からの脱却が急務
- 2.石炭火力発電は最新鋭でも問題多数
- 3.日本の公的金融機関(JBIC、NEXI、JICA)による石炭火力発電事業への投融資実態
- 4.世界の脱石炭に向けた動きと逆行する日本
1.石炭火力発電からの脱却が急務
産業革命以来のCO2などの排出によって、これまでに地球の平均気温は、工業化前と比べて0.85℃上昇し、最悪の場合には2100年までには5.65℃上昇すると予測されています。2020年1月15日、国連(UN)は過去10年間の平均気温が観測史上最も高かったと発表しました。また、世界気象機関(WMO)は、世界の主要な観測データセットを分析し、世界気温の上昇がすでに悲惨な結果をもたらしているとの研究結果を出しています。
気温上昇は、熱波や氷の溶解、干ばつや洪水といった異常気象を引き起こし、人々の暮らしや経済基盤をおびやかしています。特に貧しい国の人々ほど、大きな影響をうけることになると指摘されており、気候変動対策をすすめるためには石炭燃料から一刻も早く脱却しなければなりません。2015年の気候変動枠組条約締約国会議(COP24)では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える」ことを目指すとした「パリ協定」が採択され、2020年から実施段階に入ることを鑑みれば、石炭火力発電からの脱却、「脱石炭」は急務です。
2.石炭火力発電は最新鋭でも問題多数
(1)CO2排出の問題
石炭火力発電は、二酸化炭素排出量が多く気候変動対策に逆行するとして、活用を続ける日本などに対し批判が高まっています。化石燃料である石油・石炭・天然ガスを燃やして発電する場合、いずれも多くのCO2を排出しますが、なかでも石炭はとびぬけて多くのCO2を排出します。
日本政府は、日本のベストプラクティス(最高水準性能)である高効率石炭火力発電技術を適用すればCO2の削減効果があると主張しますが、従来品との比較であって、なお最も多くのCO2を排出する発電方法であることは変わりありません。現在も研究、実証実験が行われている石炭ガス化の技術(IGCC)ですら、天然ガスの2倍以上のCO2を排出します。近年、気温上昇を2℃以下に抑制するためには、気候変動問題の最大の要因の一つである石炭火力発電の利用を抑制するしかないとする「脱石炭」の動きが世界規模で加速しており、途上国を中心に世界の国々に対して、積極的に石炭火力発電技術を輸出することを経済成長戦略と位置づけている日本の姿勢が問われています。
(2)大気汚染の問題
日本が輸出している石炭火力発電所で「利用可能な最良の技術(Best Available Technology: BAT)」が導入されていないことも問題です。
国際協力銀行(JBIC)および国際協力機構(JICA)が支援する石炭火力発電所のうち、環境影響評価等の関連文書が入手できた14件(JICA検討見込み1件、JBIC検討中1件を含む)について、二酸化硫黄、窒素酸化物、ばい塵に係る公害対策、排出濃度を調べ、同様の関連情報を入手できた日本国内の石炭火力発電所4件と比較したところ、JBIC等の支援案件の発電所における各排出濃度が国内の発電所のものよりも非常に高い傾向にあることが明らかとなっています(別表PDF参照)。性能の劣る公害対策技術しか導入されていないということは、日本の支援により建設される石炭火力発電所の地域住民が高濃度の危険な汚染物質に晒され、その結果、住民の健康だけでなく、同地域の農作物などの生産性や安全性に悪影響を及ぼす可能性があることを意味しています。
JBICやJICAが現地の事業者に対し、周辺環境および住民生活の維持・改善に向けた対策を求めたり、影響力を行使するなど、必要な措置を取っているとは言えない実態もあるのが事実です。また、案件周辺地域の住民が、日本の汚染基準と比較して非常に高い汚染物質に晒されていることは、日本の官民が国内外でのダブル・スタンダードに甘んじていることの証左です。
稼働開始後、技術輸出先の国の電力供給を石炭火力発電に固定させてしまうだけでなく、環境社会的にも長年にわたり問題を生じさせる石炭火力発電所の建設を早急に止めるべきです。
3.日本の公的金融機関 (JBIC、NEXI、JICA) による石炭火力発電事業への投融資実態
(1)公的金融機関の概要と海外石炭火力発電への投融資実態
海外の石炭火力発電事業を支援している日本の公的金融機関としては、3機関があります。
国際協力銀行(JBIC) | 海外の資源獲得や日本企業の国際競争力の強化等を目的として設立された政府出資100%の金融機関で、輸出先企業や海外事業を行う日本企業等に融資や保証を行う。主管は財務省国際局。 |
---|---|
日本貿易保険(NEXI) | 日本企業が行う輸出入、海外投資、融資に伴うリスクをカバーする保険を提供しており、政府が全額出資している。 |
国際協力機構(JICA) | 日本の政府開発資金援助(ODA)を一元的に行う実施機関として、開発途上国への国際協力を行う独立行政法人、所管は外務省。 |
2003年以降のJBIC、NEXI、JICAによる石炭火力発電事業へ投融資件数は、それぞれ29件、20件、7件。投融資額は、JBICは約146億ドル、JICAは55億ドル、NEXIの付保額は59億ドルとなっています。
投融資承諾件数 | 投融資額(NEXIの場合は付保額) | |
---|---|---|
JBIC | 29件 | 146億ドル |
NEXI | 20件 | 55億ドル |
JICA | 7件 | 59億ドル |
表にある金融機関別の投融資件数は、投融資する石炭火力発電事業が重複する場合も含まれるので、JBIC、NEXI、JICAの3機関の投融資件数の合計は36件となります。その内訳は、ベトナム12件、インドネシア9件、インド8件、モロッコ2件、その他でした。36件の総発電容量は約37.74GW、推定年間CO2 排出量は約2.3億トン[1]で、日本国内の年間CO2 排出量[2]の約2割に相当します。
日本の公的金融機関による海外石炭火力発電への投融資は、世界でも有数の規模に及んでいます。
2017年12月3日に自然資源防衛協議会(Natural Resources Defense Council: NRDC)が発表した『Power Shift: Shifting G20 International Public Finance from Coal to Renewables』[3]によると、2013年から2016年の3年間の石炭関連事業投資額は、中国が最も多く150億ドル、次いで日本は100億ドルでした。ただし、中国では日本の大手民間銀行の役割を公的金融機関が担っていることもあり、単純に中国よりも日本が少ないとは言えません。
(2)日本が支援した海外石炭火力発電設備の効率性
日本の官民が関わる石炭火力発電所の効率は、本当に日本政府が主張するように高効率なのでしょうか。JBIC が支援した石炭火力発電設備と同時期に世界で建設された発電設備の燃焼技術を比較したところ、JBIC が支援した設備の効率は世界平均を下回っていることが明らかとなりました(表2)。
JBICが支援した設備 | 世界で建設された設備 | |
---|---|---|
亜臨界圧 | 31% | 29% |
超臨界圧 | 62% | 36% |
超々臨界圧 | 7% | 29% |
その他/不明 | 0% | 6% |
次に、南アジア・東南アジアで運転中・建設中・計画中の超臨界圧(SC)と超々臨界圧(USC)の石炭火力発電用ボイラーのうち、日本、中国、韓国、インド、ロシアから提供された設備容量を比較した結果を示します(表3)。日本が支援しないと他国が低効率の設備を支援するので日本が支援するべきとの論調がありますが、日本のみが高効率の発電設備を提供しているわけではないことは明らかです。
日本 | 中国 | 韓国 | インド | ロシア | |
---|---|---|---|---|---|
超臨界圧 | 10,090 | 55,650 | 11,300 | 40,320 | 1,980 |
超々臨界圧 | 2,000 | 2,680 | 2,680 | 1,320 | 0 |
(3)公害対策
2の(2)でも輸出案件の汚染物質の排出濃度が高いことに触れましたが、根本的な対策が取られていないことが分かっています。JBICが支援した石炭火力発電設備のSO2 除去技術と微粒子(PM)除去技術を調査したところ、対象の石炭火力発電設備のうち、約半分に脱硫装置が取り付けられておらず、約8割に繊維フィルターや低温電気集じん機などの適切な微粒子除去技術が使われていませんでした。[6] これでは国外に輸出している(検討している)石炭火力発電所の汚染物質排出濃度が、日本国内の石炭火力発電所と比較して非常に高くなるのは明らかです。
脚注
- マサチューセッツ工科大の報告書「The Future of Coal」の算出データ(500MWの石炭火力発電所の年間CO2換算排出量は約300万トン)を使用。http://web.mit.edu/coal/
- 環境省「2017年度温室効果ガス排出量確報値」のデータ(12億9,200万トン)を使用。
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/results/index.html - 自然資源防衛協議会(Natural Resources Defense Council: NRDC)『Power Shift: Shifting G20 International Public Finance from Coal to Renewables』https://www.nrdc.org/resources/power-shift-g20-international-public-finance-from-coal-to-renewables
- 気候ネットワーク、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、国際環境NGO FoE Japan、CoalSwarm、Friends of the Earth US、シエラクラブ「石炭はクリーンではない(日本語PDF)」(2015年4月24日 調査レポート)を参照。
- 「石炭の公的支援:日本のせいで OECDは新興国に後れをとることになるのか?」(2015年10月15日プレスリリース)を参照。
- 4に同じ「石炭はクリーンではない」より
4.世界の脱石炭に向けた動きと逆行する日本
日本の現状
日本は、2011年の福島原発事故で原発依存度を低減する一方で、石炭、天然ガスといった化石燃料依存度を増してきました。国内で新設の石炭火力発電所を建設するだけでなく、官民をあげて国外の石炭火力発電プロジェクトに多額の支援しており、公的融資だけ見ても、日本が世界で2番目に多くの資金を石炭火力発電に投じていることが示されています。民間銀行に目を向けても石炭火力発電事業への世界の融資額ランキングでみずほFG(フィナンシャルグループ)、三菱UFJFG、三井住友FGが1位から3位を独占(ウルゲワルドらが発表した石炭産業への投融資に関する調査報告書参照[1])しています。さらに、国民の年金を預かる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も石炭火力発電への投資家として世界2位にランク入りしている状況です。先進7カ国(G7)の中で、唯一、いまだに石炭火力発電を推進し、これだけの額を石炭に費やしている日本は世界から批判を受ける立場にいます。
2020年6月9日、日本政府が次期インフラシステム輸出戦略骨子[2]を決定し、海外の石炭火力発電への公的支援については、脱炭素化への移行方針等が確認できない国へは原則支援しないとしながらも、例外として高効率案件への支援を継続する方針を決定しました。原則支援しないとしたことは政府方針の転換として前向きに受け止められるものの、公的支援中止を決定しなかったこと、現在進行中のプロジェクトを対象に含めず継続することから、今回の方針見直しの意味が問われています。
脚注
-
- Banks and Investors Against Future: NGO Research Reveals Top Financiers of New Coal Power Development
https://coalexit.org/sites/default/files/download_public/COP25_PR_Logos.pdf - http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keikyou/dai47/kettei.html (in Japanese)
- Banks and Investors Against Future: NGO Research Reveals Top Financiers of New Coal Power Development
諸外国の状況
各国では、世界の石炭火力発電の利用を減らしていくために、税金をかけたり、CO2排出量の上限を定めたりする政策を導入しています。アメリカやEUなどの先進主要国の公的金融機関は、これからはCO2排出を処理する技術(CO2固定貯留技術)などを備えない限り国内で新しい石炭火力発電所を建設してはならないという考えを明確にしていますし、石炭関連事業に比重を置く投資先からのダイベストメントを進めています。また、アメリカ、北欧、EUなどは、途上国への融資においても、石炭火力発電への融資は基本的にやめる方向で進んでいます。
世界から周回遅れとなっている日本が、批判される立場から脱出し、パリ協定に即した脱炭素社会に向けて動き出すには、日本政府、公的金融機関、民間銀行および企業がただちに石炭推進からの方針転換を図らなくてはなりません。そして、石炭や原子力という大規模集約型の発電方法から、地域分散型の再生可能エネルギーを中心とした支援に切り替え、途上国のこれからの発展を支えていくことが求められているのです。