【プレスリリース】
米国政府が国際開発金融機関による化石燃料支援を制限する投票行動方針を発表
8月16日、米財務省はバイデン米大統領が1月に署名した大統領令14008に従って、国際開発金融機関(MDBs)の化石燃料支援に対するアメリカ政府の投票行動を制限する指針を発表しました。本指針は、上流部門のガス事業やほぼすべての石炭・石油事業に対する国際開発金融機関の融資、政策支援、金融仲介機関を通じた支援について、アメリカ政府が支持しないことを定めています。これにより、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行(WB)、米州開発銀行(IDB)、アフリカ開発銀行(AfDB)、欧州復興開発銀行(EBRD)を含む、アメリカが参加している5つの国際開発金融機関における同国の投票行動が規定されました。
本指針には、4つの基準が全て満たされた場合に、中流や下流部門のガス事業への支援を可能にする条件があります。これらの基準には、1) クリーンエネルギーの代替案が実現不可能な事業、2) 脆弱で貧しい開発途上国での事業、3) 開発・エネルギー安全保障・エネルギーアクセスのメリットがある事業、4) 国際開発金融機関が共同で定めた方法論に基づいてパリ協定に整合している事業、が含まれています。
本指針には「国際開発金融機関の理事会や出資国と協力し、クリーンエネルギー、イノベーション、エネルギー効率を優先するよう努めます。事業を検討する際には、国際開発金融機関のスタッフが最初にこれらのオプションを評価し、実現不可能な場合にのみ化石燃料を検討することを推奨します」と記載されています。
化石燃料に対するアメリカの規制は、ガスを含む全ての化石燃料に対する公的支援に終止符を打つ勢いが増していることを示しています。欧州連合(EU)、イギリス、および欧州投資銀行(EIB)は、化石燃料事業への公的資金支援を停止することを今年約束しました。国際エネルギー機関(IEA)および国連事務総長はこのような流れを支持する姿勢を示しており、各国政府に対し、気温上昇を1.5度に抑える場合は、ガスを含む新規の化石燃料事業への資金支援を停止し、化石燃料の使用を段階的に廃止するよう求めています。
Oil Change InternationalのシニアキャンペーナーであるSusanne Wongは、「アメリカ政府による今回の動きは、化石燃料の時代が終わりに近づいていることを示す重要な兆候です。政府や機関がコミュニティを最優先し、化石燃料への継続的な支援によって悪化させた気候危機を止める時が来ました」と述べています。
Oil Change InternationalのリサーチアナリストであるBronwen Tuckerは、「アメリカは国際開発金融機関に大きな影響力を持っているため、バイデン大統領とイエレン財務長官が提示したガス事業の融資条件に明確かつ厳密な詳細規定を直ちに追加することが重要です。最悪の場合には、アメリカが参加している国際開発金融機関の化石燃料融資全体の最大40%が継続する可能性があります。これは、気候や地域コミュニティが深刻な影響を受けるガスパイプライン、発電所、LNGターミナルで、年間16億米ドルになります」と述べています。
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)のプログラム・ディレクターである田辺有輝は、「日本はアジア開発銀行の最大の出資国であり、世界銀行の第2位の出資国です。日本政府は石炭以外の化石燃料支援の停止方針をまったく示しておらず、欧米から遅れをとっています。日本政府はアメリカ政府の動きを見習って、同様の方針を策定するべきです」と述べています。
本件に関するお問い合わせ先
<日本>
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、田辺有輝、tanabe@jacses.org
<アメリカ>
Susanne Wong, susanne@priceofoil.org, +1 510 847 3759
Bronwen Tucker, bronwen@priceofoil.org, +1 587 926 7601
補足事項
- 米財務省が発表した国際開発金融機関に関する最新の化石燃料エネルギーガイダンスについては、こちらをご覧ください。https://home.treasury.gov/system/files/136/Fossil-Fuel-Energy-Guidance-for-the-Multilateral-Development-Banks.pdf
- Oil Change Internationalのデータによれば、米財務省のガイダンスの条件が適切に適用されていない場合、2018年から2020年の国際開発金融機関の化石燃料融資全体の最大40%(年間16億米ドル)が、引き続き支援される可能性があります。この金額は、ガイダンスに述べられているようにアメリカが賛成票を投じ続ける可能性がある国際開発協会(IDA)対象国や脆弱で紛争の影響を受けている小島嶼開発途上国における中流および下流部門のガス事業です。これには、アメリカが参加している国際開発金融機関(世界銀行、米州開発銀行、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行、欧州復興開発銀行)の融資金額のみが含まれてます。
- 今年初めに国際的な化石燃料事業への公的支援を停止する方針が可決された後、イギリス政府は「他国、公的および民間の金融機関、国際開発金融機関が国際的な支援をあらゆる形態の化石燃料からクリーンエネルギーにシフトすることにより、エネルギー移行をどのように加速できるかについてビジョンを結集させます」と発表しました。