2016年6月13日、クロアチアの経済大臣が、クロアチア電力公社(HEP: Hrvatska elektroprivreda)*1による超臨界圧(SC)石炭火力発電設備プロミンC(50万kW)の建設計画の中止を発表した。この計画は、クロアチア湾岸部イストリア郡に位置するプロミン発電所内プロミンAのリプレースとして計画され、入札の結果で丸紅が事業者として選定されていたもの。2011年にリプレース計画が持ち上がって以来の5年間におよぶ反対運動が実った形だ。
計画では、旧設備の建て替えにより発電能力の大幅増を見込んでいたが、気候変動や大気汚染への懸念、経済性への疑問、さらに既存の発電設備による地元住民の健康被害が指摘され、反対運動が続いていた。数ヶ月前には、欧州委員会が事業者であるHEPの政治的関与が大きすぎるため国が補助するのは不適切と報じており、経済大臣はその点を確認した上で、廉価な電気料金は経済的ではないとの見解を示していた。2016年3月には、環境団体のZelena akcija/Friends of the Earth Croatiaの委託でSociety for Sustainable Development Design (DOOR)が欧州委員会の手法に準じて行った経済分析*2では、プロミンC計画は費用対効果が危ぶまれ、運用コストも大きくなることから、計画続行は勧めないとの見解が出されていた。この拡張計画には入札で丸紅が選定されており、予算は8-10億ユーロとみられていた。プロミンCが発電する電力のある程度の量をHEPが価格保障して買い取ることにより採算性が見込めると考えられていたが、この取引はEUの法律に違反する恐れからどう対処されるかが課題だった。また、プロミンCは、超臨界圧(SC)という最高効率の技術ではなく、OECD合意では、50万kW以上の石炭火力発電技術には、途上国に対しても超臨界圧(SC)は支援が認められない効率の悪いものであり、そもそも建設はありえなかった案件でもある。
このような経済的および論理的、環境的な問題を抱えていたプロミンCの計画が中止になったことは、大きな成果である。
長年プロミンCへの反対運動を続けてきた環境団体などは、この計画中止の決定を歓迎するとともに、クロアチアは失われた時間をこれから取り戻し、エネルギー効率と持続可能な再生可能エネルギーを考えた新たな政策を確立していく必要があるとしている。このプロミンC計画中止をきっかけに、ヨーロッパ諸国や他の国々で再生可能エネルギーが導入しやすくなってきている状況を無視してきたクロアチアをはじめとするバルカン諸国が世界のエネルギー市場の動向に目を向けることが期待される。また、丸紅には、この計画中止をきっかけに他の石炭火力事業への参入についても再検討することが期待される。
プロミン発電所内の既存設備と計画
Plomin A |
Plomin B | Plomin C | |
建設年 |
1969年 |
2000年 | 2013年着工-2018年完成予定→中止 |
運営 | Hrvatska elektroprivreda (HEP) | HEP+RWE Power AG | HEP |
発電タイプ | Condensing | Condensing | 超臨界圧(SC) |
発電容量 | 120 MW | 210 MW | 500 MW |
現在クロアチアではプロミンAとBの2基が稼働している。プロミンAは老朽化のため2年で閉鎖になると見越されているが、2000年建設のプロミンBは、今後10年は稼働することになるだろう。今のところ、稼働延長計画は出ていないが、プロミンCの計画中止を受け、早々に議論されることになると思われる。
【注釈】
*1 HEP http://www.hep.hr/en
*2 経済分析は公式データをもとに行われた。データが入手できない場合には、関連する国際団体による推定値が使われた。分析は、欧州委員会のImplementing Regulation 2015/207 from 20 January 2014、EC’s guide to cost-benefit analysis for investment projects(2014-2020年)そして2013 EIB guidelines for the economic valuation of projectsに書かれている手法に準じて行われた。これらの手法についても詳細は参考リンク(2)より閲覧が可能。
【参考】
1) Bankwatch network: Croatia to drop controversial coal plant project, confirms minister (2016/6/14)
2) Bankwatch network: Expert analysis confirms Croatian Plomin C coal plant is economically unfeasible (2016/3/3)
3) Banktrack、Blog: Game over for Plomin C – another dodgy coal deal bites the dust! (2016/6/15)
4) Harmful coal project “Plomin C” stopped in Croatia: Interview with Chairperson of Friends of the Earth Croatia, Bernard Ivcic ((CC) 2016 Radio Mundo Real 10 años) (2016/6/28)
【ダウンロード】 丸紅案件のクロアチア・プロミンC石炭火力発電所が建設計画中止に!(PDF)