STOP 日本の化石燃料融資にNO!

【プレスリリース】インドネシアで不当勾留されている農民2 名に関し、 日本政府の迅速な対応を求める国際要請書(26ヶ国187団体賛同)を提出

JICAが支援中の汚染源となる西ジャワ・インドラマユ石炭火力発電事業から生活や環境を守ろうと闘っている住民への人権侵害が深刻化

2018年10月12日

※1団体および1個人の賛同の追加がありました。したがって、以降の賛同団体数は188団体に修正させていただきます。(10月15日時点)

ジャカルタ/東京発 ― 10月12日、日本が支援中の汚染源となる石炭火力発電事業に抗議の声をあげ、環境を守ろうと闘ってきたインドネシアの農民2名の無条件釈放に向け、迅速な対応を求める国際要請書が日本政府に対して提出されました。同書簡には、世界中の市民社会組織(CSOs)188団体(26ヶ国を含む)から賛同が寄せられています。

現地NGOであるインドネシア環境フォーラム(WALHI)は10月12日、在ジャカルタ日本大使館に同国際要請書を直接持参し、提出しました。また、その前日である10月11日には、インドラマユの地元農民とともに、インドネシア大学(UI)で行なわれた公開講演会の場に参加。講演を行なった北岡 伸一 国際協力機構(JICA)理事長に直接懸念の声を伝えました。

 

 

 

 

 

 

(写真左)事業に反対しているインドラマユの農民サウィンさん、スクマさん。9月24日、当局に勾留された。
(写真右)10月11日、インドラマユ住民とWALHIはインドネシア大学で講演したJICA理事長に対し、国際要請書を直接提出。その後、会場前にて撮影。

現在、バリで国際通貨基金(IMF)・世界銀行グループ年次総会(2018年)が開催され、主要な二国間および国際ドナー・金融関係者が集うなか、CSOsは、インドネシアにとって日本は依然として最大の援助供与国であること、また、いかなる形態のものでも支援を提供している事業に関連して起きている人権侵害について、日本が説明責任を果たすべきと強調しました。

西ジャワ州インドラマユの農民は、彼らの生計手段や健康に被害が及ぶことを懸念し、石炭火力発電所の拡張計画(1000 MW × 2基)に反対しています。2017年12月に地裁が同インドラマユ石炭発電所に対する環境許認可を取消す判決を下し、農民が勝訴して以来、農民らに対する人権侵害は激しさを増しています。特に、こうした反対の声を積極的にあげている農民を地元の県警が犯罪者扱いするケースが続いています。犯罪者扱いされ、この10月まで6ヶ月間、勾留されていた農民らの一人は、上述の訴訟の原告の一人でもありました。

サウィン氏、および、スクマ氏の両農民もまた、同事業の予定地でコメづくりやさまざまな野菜づくりに勤しむ一方、彼らの村で計画されている石炭発電所への抗議活動に積極的に参加してきました。同2名は9月24日から勾留されています。彼らが『国旗侮辱罪』、つまり、インドネシア国旗を上下逆に掲げたとして不当逮捕されたのは、これが2度目になりますが、両名ともに、そうした申立てを強く否定してきました。これは明らかにインドネシア政府が国家事業に抗議している地域住民を黙らせようと、虚偽の非難、つまり、犯罪者扱いをしている弾圧に他なりません。

JICAは、政府開発援助(ODA)のスキームの下、インドラマユの同計画中1基目(1000 MW)の実行可能性調査を実施し、現在も基本設計に対するエンジニアリング・サービス借款を供与中です。インドネシア政府が日本政府に正式要請した後、JICAは同発電所の建設に対する本体借款を供与することが見込まれています。

同計画をめぐっては、国際CSOsも、日本政府が継続して石炭火力発電所の輸出を支援している方針を批判してきました。というのも、そうした方針が、パリ協定に沿って、世界が劇的な炭素排出削減を行っている努力を蔑ろにしてしまうからです。パリ協定の平均気温上昇に関する長期目標を実現するためには、新規の石炭火力発電所の建設はもはや許されません。

「(小作や農業労働者など)零細農民を今回のように犯罪者扱いするケースは、(事業の)影響を受けるコミュニティーを支援しているNGOの活動家にまで及ぶ様相を呈しています。影響を受けるコミュニティーを支援しているというだけで、NGOの活動家も、馬鹿げた無分別な言い分で犯罪者扱いを受け、囚われの身になる恐れがあります。コミュニティーや活動家は、よりよい健康的な生活や環境に対する権利を要求しているだけであり、また、表現の自由に対する権利を行使しているだけです。JICAがインドネシア政府の要求を受け入れ、インドラマユ石炭火力発電所への融資を供与するなら、それは、JICAも人権侵害に関与していることを意味します。私たちは、JICAが自身の関与を再検討し、1000 MWのインドラマユ発電所に対するエンジニアリング・サービス借款の次回貸付を停止するよう求めます。」とWALHI西ジャワ代表のダダン・ラムダンは述べました。

「私たちは(10月11日)、JICA北岡 理事長に直接、同要請書を手渡しました。これは私たちがJICAに対して提出した最初の要請書ではありません。犯罪者扱いのケースが起き始めて以来、私たちはJICAに対し、現場で起きていることを伝えてきました。私たちの望みは、JICAが犯罪者扱いのケースに対応し、人権侵害が起きている同事業に対する融資の供与を停止することです。加えて、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1.5℃特別報告書(SR15)は、2050年に世界の気温を産業革命前に比べて1.5℃未満に抑えるためには、石炭の利用は1~7%にしなくてはならないと述べています。これは、こうした目標を達成するため、これ以上の石炭火力発電所の建設は許容されないということを意味しています。現在の開発軌道のままでは、世界の気温は3度上昇してしまうでしょう。それは、大災害につながる道です。JICAがしていること、つまり、石炭火力発電所に資金提供することは、そうした大災害を引き起こすものです。」とWALHI本部エネルギー・都市問題キャンペーナーのドゥウィ・サウンは述べました。

「インドラマユでの同事業に対する日本の支援がなければ、地元の農民やその家族らは今回のような不当逮捕・勾留といった目に合わなかったでしょう。日本政府は、地域住民が平和的な手段で自由に抗議の声をあげることができないような事業に対し、私たちの税金を使って支援をすべきではありません。そうした状況は、表現の自由など基本的人権の明確な違反であり、日本政府自身がもつ開発協力大綱にも違反しています。したがって、日本はインドネシア政府に対し、現在の人権状況への懸念を迅速かつ明確に伝えるべきです。また、毅然とした態度で、インドラマユ事業へのいかなる支援も停止すべきです。そうした対応をしなければ、日本は人権侵害に加担しているのと同様です。」とFoE Japan開発と環境チームリーダーの波多江秀枝は述べました。

連絡先:
WALHI, Dwi Sawung
WALHI West Java(WALHI西ジャワ), Dadan Ramdan
Friends of the Earth Japan (FoE Japan), Hozue HATAE(波多江 秀枝)

緊急要請書(本文和訳)

2018年10月12日

内閣総理大臣 安倍 晋三 様
外務大臣 河野 太郎 様
国際協力機構 理事長 北岡 伸一 様

緊急要請:インドラマユ農民の釈放を!
日本政府はインドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電所へのいかなる支援も停止すべき

世界各国からの以下の署名団体は、インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(送変電設備建設を含む *1 )(以下、同計画)に反対している現地農民への深刻な人権侵害に対し、深い憂慮の念を表明します。国際市民社会は日本政府に対し、すでに2018年5月に提出した書簡 *2 のなかで、現在まさに起きている「犯罪者扱い」の状況について警告し、国際協力機構(JICA)が同計画への支援をこれ以上行なわないよう要請しました。しかし、インドラマユの現場では人権状況が改善されるどころか、日本が支援している汚染かつ破壊をもたらす同石炭火力拡張計画から自分たちの生活や環境を守ろうと努力してきている現地農民に対し、インドネシア政府側の弾圧が依然続いてます。

9月24日、昨年12月に一時不当逮捕された農民2名サウィン氏およびスクマ氏が、インドラマユ県警によって再び不当逮捕されました。インドネシア国旗を上下逆に掲げたという「国旗侮辱罪」の嫌疑で、前回の不当逮捕時には24時間以内に釈放されましたが、依然として容疑者扱いの状況は変わっていませんでした。県警はその後も同罪状で捜査を続けており、9月21日付で両名に召喚状を出していました。それを受け、両名は24日、担当弁護士とともにインドラマユ県警に赴きました。

同農民2名は、同計画の反対運動や同計画に対する環境許認可取消を求める行政訴訟を続けている現地の住民ネットワーク JATAYU(インドラマユから石炭の煙をなくすためのネットワーク)のメンバーで、積極的に活動を行なってきました。9月24日は、多くのJATAYUのメンバーもインドラマユ県警前に集まり、2名の不当逮捕を止めるよう抗議の声を上げましたが、県警側は逃亡の恐れ・証拠隠滅の恐れ等を理由に10月13日まで20日間の勾留を決定しました。

両名は9月27日以降、現在も、検察によって勾留されている状態となっています。そして、検察官は、現地農民らが同計画に抗議しているのは、土地を占有したいだけとの偏った認識を示しています。しかし、現地農民が同計画に抗議している真の理由は、同計画によって彼らの生計手段が破壊され、健康状態が悪化することを懸念しているためです。

インドラマユの現地住民はこれまで、拡張計画反対の横断幕とともに、インドネシア国旗を掲げながら、同計画の中止を求めてきました。今回、不当勾留されているサウィン氏およびスクマ氏も、昨年12月14日、継続して同計画に反対し、自分たちの生活や環境を守ろうとしている強い意思を見せようと、国旗と横断幕を自分たちの村に取り付けました。隣人の証言や証拠写真によれば、「国旗を上下逆に掲げた」という「国旗侮辱罪」が言いがかりであることは明白です。また、2名の農民自身も、そのような「(国旗)侮辱罪」について強く否定し続けています。同計画に反対する現地住民を黙らせようとするインドネシア政府側の弾圧・嫌がらせの可能性が非常に高いと言えます。

また、この時期に同「国旗侮辱罪」のケースが蒸し返されている背景には、もう一つの「犯罪者扱い」のケースとの兼ね合いがあると考えられます。つまり、2017年11月29日、同計画のためのアクセス道路工事をめぐるインドネシア国有電力会社(PLN)の下請け業者との暴力沙汰で、上述した行政訴訟の原告1名を含む現地住民4名が収監されている件です。同4名については、今年4月初頭から未決勾留されていましたが、今年8月半ばに6ヶ月の実刑が言い渡され、この10月初頭に釈放されたばかりです。こちらのケースが終わるのをあたかも見計らったかのように、インドラマユ県警がまた「国旗侮辱罪」の件を持ち出してきていることは、同計画に反対する現地住民に絶え間なく圧力をかける目的ともとれます。実際、現地住民、特にこうした弾圧の直接の対象となっている当人、および、その家族にとっては、日々の生活を奪われ、心身両面で大きな負担を抱えることになっているのは否めません。

加えて、こうした弾圧は強化されようとしています。警察と検察は、現地農民の支援者を特定しようと、彼らに対して同計画に抗議するよう言ったのが誰なのか、「犯罪者扱い」を受けている両農民に問い質しています。今後、警察と検察の迫害が、現地農民を支援している個人や団体にまで及ぶことが非常に懸念されます。そうなれば、1945年インドネシア共和国憲法第28条E(3)項、つまり、(公共の面前で)意見を自由に表明する権利に明らかに違反します。

同計画に反対する現地住民らが、裁判や平和的な手段で抗議しているにもかかわらず、このような公権力による弾圧を受けるといった状況は、許されるべきではありません。また、こうした公権力による強硬な行為は、現地住民のなかに恐怖感を植え付けるとともに、少なからぬ住民に萎縮効果をもたらし、反対運動への参加や自由な意見表明を妨げる可能性もあり、人権擁護の観点から大変憂慮されます。このまま深刻な人権侵害の状況が改善されなければ、JICA 環境社会配慮ガイドライン(以下、ガイドライン)の規定する「ステークホルダーの意味ある参加」や「社会的合意」が確保されないまま、抑圧的な形で同計画が進められてしまうことが大変危惧されます。

日本政府の開発協力大綱 *3 でも、「開発協力の適正性確保のための原則」として、「当該国における民主化,法の支配及び基本的人権の保障をめぐる状況に十分注意を払う」ことが明記されており、日本政府は、現地住民が自由に反対の声をあげることができない、つまり、表現の自由など基本的人権や適切な住民参加が確保されていない状況にある事業への支援を決してすべきではありません。そのような状況で資金供与をすれば、人権侵害に加担していることと同じであり、現在の人権状況に日本政府が満足しているという誤った認識を相手国政府に与える恐れもあります。

インドネシアが日本の政府開発援助(ODA)の最大の受取国(累計ベース)であり、また、日本がインドネシアに対する最大の援助国である *4 ことを鑑みれば、日本政府の毅然とした行動は極めて重要です。もう一つ看過してはならないことは、JICAがインドネシア国家警察に対し、2001年から今日まで、「インドネシア国家警察改革支援プログラム」 *5 の下で、技術協力、無償資金協力、研修を含む、継続的な支援を行なってきていることです。上述したようなケースは、政府の事業に平和的に抗議している市民を鎮圧する方法として、善良な市民にいかなる刑法の条項をも適用して捕えていた(スハルトの)新秩序の時代から、(インドネシアの)治安維持機構が何ら変化を遂げていないことを示すもので、日本政府はこのような実態に気づくべきです。

したがって、私たちは、日本政府・JICAに対し、可及的速やかに以下の対応をとるよう要請します。

1. インドネシア政府・PLNに対して、今回の農民2名の不当逮捕・長期勾留の件に関する事実関係の確認を行ない、当該農民2名の無条件釈放を働きかけること。また、同計画への懸念を示している現地農民、および、その支援者に対するこうした「犯罪者扱い」の再発防止を含む、人権状況の改善を求めること。
2. インドネシア政府・PLNに対して、日本が支援している事業地での地元の軍・警察関係者の関与も含む人権侵害について強い懸念を表明するとともに、深刻な人権侵害が起きている事業への支援はできぬ旨をより明確な形で伝えること。
3. 同拡張計画(送変電設備建設を含む)において、JICAガイドラインに違反している状況がみられるため、供与中のエンジニアリング・サービス(E/S)借款の貸付を停止すること。また、相手国政府から要請があった場合でも、送変電設備等を含む本体工事への円借款供与の検討を行なわないこと。

繰り返しとなりますが、現地住民の意味ある参加や表現の自由を著しく阻害するこうした弾圧はあってはならないことです。現地住民の反対・懸念の声を日本政府が真摯に受け止め、本件について賢明かつ早急な対応をとっていただけるよう宜しくお願い申し上げます。

(以下、26ヵ国188団体、7個人署名)

脚注:
*1. https://www.jica.go.jp/english/our_work/evaluation/oda_loan/economic_cooperation/c8h0vm000001rdjt-att/indonesia130328_02.pdf
*2. http://www.foejapan.org/en/aid/180518.html
*3. https://www.mofa.go.jp/files/000067701.pdf
*4. https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000367699.pdf#page=19 (日本語のみ)
*5. https://www.jica.go.jp/indonesia/english/office/others/pdf/NL_200708_02.pdf ; https://www.jica.go.jp/indonesia/english/activities/activity10.html

(※)インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業
2,000 MW(1,000 MW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(1,000 MW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、エンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を2013年3月に締結。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題視された。

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緊急要請書(和文PDF)(英語原文PDF)

連絡先

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