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インドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業:日本政府・JICAに「人権侵害と対立の深刻化に関する緊急要請」を提出

昨年末に事業に反対する農民らが不当逮捕されるなど、地元で深刻な人権侵害が続いているインドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(国際協力機構(JICA)関与案件)の現場で、先週2月2日から、インドネシア政府側によって警察や軍が多数配備されるなか、関連設備の工事が強行されています。

 

 

 

 

 

 

(写真)現地からの報告によれば、約100名の制服を着用した警官が抗議に集まった農民らに対峙し、約50名の私服警官が農民の周りに配備された他、少なくとも約10名の軍関係者が集まった農民らの周囲を歩きながら、抗議行動の様子を撮影していたとのこと。左写真では後方に多数の警察官が待機しているのが見える。(2018年2月2日。現地提供写真)

同工事により、唯一の生活の糧である農地を失う小作農や農業労働者は、工事をくい止めようと抗議に集まりましたが、大勢の警察の前で為すすべはなく、泣く泣く解散する他ありませんでした。

こうした状況を受け、日本NGO 4団体は、2月5日、日本政府・JICAに対し、緊急要請書を提出。今年1月にも要請書を提出し、人権侵害の深刻化について日本政府・JICAに対して警鐘を鳴らしたばかりにもかかわらず、こうした事態が現地で依然起きていることについて深い遺憾の意を表明しました。

また、生計手段の喪失という死活問題に直面する農民への適切かつ十分な配慮が行われておらず、深刻な人権侵害がつづいている同拡張計画について、関連設備を含む一切の工事作業を停止するよう、インドネシア政府側に早急に申し入れるよう要請しました。

日本が関与してきた同拡張計画において、大勢の軍・警察関係者を出動させなくては建設作業を進めることができず、また、大勢の軍・警察を前に地元の農民が涙を流さなくてはならないような現場の実態を日本政府・JICAは直視し、地域住民の望まない開発にこれ以上の公的資金を投じないよう、賢明な対応をとることが求められています。

以下、緊急要請書の本文です。(PDF版はこちらでご覧ください。)
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2018年2月5日
外務大臣 河野 太郎 様
国際協力機構 理事長 北岡 伸一 様
インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画
人権侵害と対立の深刻化に関する緊急要請

国際環境NGO FoE Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン
気候ネットワーク
私たちは、インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(1,000 MW)について、本年1月10日、および、17日付で貴省および貴機構に提出した「日本の公的支援の停止を求める要請書」において、さまざまな観点から、日本政府・JICAがE/S借款のこれ以上の貸付を行なうべきではなく、また、相手国政府から要請があった場合でも本体工事への円借款供与の検討を行なうべきではない理由を詳述しました。とりわけ、地元の軍・警察関係者の関与も含め、同拡張計画に関連して繰り返し起こっている現地での人権侵害については、日本政府・JICAからインドネシア政府側に対し、日本が関与している事業地での人権侵害について強い懸念を表明するとともに、こうした深刻な人権侵害が起きている事業への支援はできぬ旨をより明確な形で伝えるよう要請致しました。

しかし、現地からの報告によれば、本年2月2日、同拡張計画のための変電設備の関連施設(脚注1)について建設作業を進めるため、少なくとも約150名の地元警察官、および、少なくとも約10名の軍関係者が、インドネシア国有電力会社(PLN)の建設下請け会社の重機とともに現場に配備されたとのことです(脚注2) 。建設作業をくい止めようと約100名の農民も抗議活動に集まりましたが、大勢の警察の前で為すすべはなく、泣く泣く解散する他はありませんでした。そして、農民の抗議活動の解散後、PLNの下請け会社による建設作業が強行されてしまいました。私たちは、上述のように、直近の要請書で人権侵害の深刻化について日本政府・JICAに対して警鐘を鳴らしたばかりにもかかわらず、こうした事態が現地で依然起きていることについて深い遺憾の意を表明します。

農民の生活への実害も大変深刻な問題です。同変電設備の関連施設の工事現場は、PLNが昨年4月から工事を進めてきたアクセス道路の延伸上にあたります。毎年1~2月に田植え期を迎える同地域では、今期もコメを作ろうと小作や農業労働者が共同で苗を準備済みで、同変電設備の関連施設の予定地でも、近日中に田植えが行なわれる予定でした。すでに2月2日に同予定地内の一部の農地に土砂が入れられてしまい、使えなくなっていますが、今後、このまま建設作業が強行されれば、そこで生計を営んできたより多くの農民が生計手段を喪失することになります。

PLNはJICAが策定支援した土地収用計画(LAP)で、補償計画や生計回復支援対策等の措置を講じると説明するかもしれませんが、実際、作物補償に関して小作等に適切な事前協議はなく、補償水準を知る機会すらも与えられないまま不透明な形で支払いが行なわれるなど、昨年初めから、「非自発的住民移転及び生計手段の喪失に係る対策の立案、実施、モニタリングにおける影響を受ける人々の適切な参加」を規定する『国際協力機構 環境社会配慮ガイドライン』(以下、JICAガイドライン)の違反の問題が指摘されてきました。また、現段階で生計回復支援対策等が始まっていない状況は、「十分な補償及び支援が適切な時期に与えられなければならない」とするJICAガイドラインの規定にも違反します。さらに、同拡張計画に反対してきた農民が生計回復支援対策等を問題の解決になるとは考えていないことは、事業に反対する住民グループから日本政府・JICAに対し、書簡や会合で繰り返し伝えられてきました。これは、「対象者との合意の上で実効性ある対策が講じられなければならない」とするJICAガイドラインの規定に違反します。

また、私たちは、日本が関与してきた同拡張計画において、大勢の軍・警察関係者を出動させなくては建設作業を進めることができない状況になっている実態を日本政府・JICAに直視していただく必要があると考えます。つまり、私たちが先の要請書でも述べたとおり、同拡張計画についてはJICAガイドラインで要件とされている「社会的合意」が確保されているとは言えない状況があります。また、インドネシア政府側が、ガイドラインで規定されている「十分な調整」、「早期の段階での情報公開や地域住民との十分な協議」、そして、「社会的弱者への適切な配慮」を行なわず、事業ありきの強硬な姿勢をとり続けているため、反対派住民との対立は深まる一方です。そして、大変遺憾なことに、今回も、PLNは警察・軍の配備という強硬なやり方で工事を進めており、同拡張計画に対する「社会的合意」を今後、適切な方法で形成していくことをさらに困難な状況にしてしまっています。

したがって、私たちは、これ以上の農民への生活被害をくい止め、また、住民との対立や人権侵害の深刻化を回避するためにも、日本政府・JICAに対し、早急に以下の対応をとるよう要請致します。

1. インドネシア政府・PLNに対し、社会的弱者である小作・農業労働者など農民への補償・生計回復支援対策等がJICAガイドラインに沿った形で行なわれるまで、同拡張計画の関連設備を含む一切の工事作業を停止するよう申し入れること。また、現在のように、同拡張計画の関連設備の事業実施にあたってJICAガイドライン違反の状況がある場合、今後、E/S借款の貸付や関連設備を含む本体工事への円借款供与を日本政府・JICAが行なえない旨、明確に伝えること。

2. インドネシア政府・PLNに対し、日本が関与している事業地での地元の軍・警察関係者の関与も含む人権侵害について強い懸念を表明するとともに、深刻な人権侵害が起きている事業への支援はできぬ旨をより明確な形で伝えること。

私たちの先の要請書にもあるとおり、同拡張計画へのこれ以上の公的支援を行なわないことも含め、同拡張計画に係る現地住民の反対・懸念の声を日本政府・JICAが真摯に受け止め、賢明な対応をとっていただけるよう宜しくお願い申し上げます。

以上

(脚注1)JICAの同拡張計画E/S借款に係る事業事前評価表によれば、本体工事の円借款対象に「送変電設備建設」が含まれる見込み。
(脚注2)現地からの報告によれば、約100名の制服を着用した警官が抗議に集まった農民らに対峙し、約50名の私服警官が農民の周りに配備された他、少なくとも約10名の軍関係者が集まった農民らの周囲を歩きながら、抗議行動の様子を撮影していたとのこと。

【連絡先】
国際環境NGO FoE Japan(担当:波多江秀枝)
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
Tel:03-6909-5983 Fax:03-6909-5986

(※)インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業
2,000 MW(1,000 MW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(1,000 MW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、エンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を2013年3月に締結。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題視された。

こちらもご参照ください。(FoE Japan インドラマユ情報)