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インドネシア・チレボン石火 住民勝訴確定も、「無効な許認可の改訂版」で拡張続行?―JBICは融資前に許認可の有効性を徹底審査すべき

日本の官民が推進している西ジャワ州・チレボン石炭火力発電事業(※)の拡張計画(1,000 MW。丸紅、JERA出資)ですが、地元住民が起こした行政訴訟において被告である州政府が控訴を取り下げたため、「環境許認可の無効」を言い渡した地裁判決が確定しました。しかし、「無効が確定」した環境許認可の「改訂版」を根拠に、事業者は現在も建設作業を続行しており、国際協力銀行(JBIC)も融資の支払いに踏み切ることが懸念されています。

以下、違法な事業が非常に不透明な形で進められている現状と、日本NGOが財務省・JBICに提出した要請書についての報告です。

写真)4月19日、バンドゥン地裁前で判決を待つカンチ・クロン村の原告住民ら

 

 

 

同事業では、すでに稼働中の第1発電所(660 MW。丸紅出資)により、小規模な漁業など住民の生計手段に甚大な被害が及ぼされてきました。住民グループRAPEL(ラペル。環境保護民衆)は、自分たちの生活へのさらなる被害を食い止めようと、昨年12月6日、同事業の拡張計画について「不当に環境許認可が発行された」と西ジャワ州政府を提訴。複数の公聴会開催の後、4月19日のバンドゥン地裁での判決で、住民側の訴えが認められ、「環境許認可の無効」が言い渡されました。

その後、被告である西ジャワ州政府はすぐに控訴していましたが、突如、州政府が控訴を取り下げたのは8月に入ってからでした。ジャカルタ高裁が8月半ばに控訴取り下げを認めたことで、地裁の判決が確定、つまり、住民の勝訴が確定しました。

しかし、この司法手続きと同時並行で、事業者と地元政府は6月から、環境許認可の「改訂」手続きを着々と進めていたようです。JBICも、8月初めには事業者から「環境アセスメント報告書・補遺版」と「改訂」許認可(7月17日付発行)を受領しています。

一方、こうした改訂手続きは非常に不透明なやり方で進められていました。地元住民や支援NGOは、事業者が6月初めに「許認可の改訂申請をした」という情報については西ジャワ州政府のホームページに掲載されたため知り得たものの、その後、「改訂」手続きが進められ、「改訂」許認可が発行されたという事実を知ったのは、「改訂」許認可の発行から約2ヶ月経った9月半ばでした。蓋を開けてみれば、州政府が控訴を取り下げた理由は、新たな許認可を発行したからに他ならなかったわけです。

JBICは、4月18日、地裁の判決一日前に融資契約を締結という前代未聞の決定を行ないましたが、その翌日の住民勝訴の判決後、「判決内容を精査中」とし、融資の支払いは控えてきました。しかし、現在、JBICは事業者から「無効が確定した許認可の改訂版」の提出を受け、融資の支払いをするか否かについて、精査を続行しています。事業者に対する融資の支払いを今にも行なってしまうことが懸念されます。

こうした状況を受け、国際環境NGO FoE Japan、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候ネットワークの3団体は、財務省とJBICに対し、8月31日付で要請書を提出。インドネシアの法・規則で「無効な環境許認可」を改訂するための手続きは一切規定されていないこと、また、改訂版の発行がさまざまな法的論争を伴うことから新たな訴訟に発展する可能性などを指摘し、JBICが「改訂版」の有効性について、慎重かつ徹底した審査を行ない、融資の支払いを拙速に行なわぬよう求めました。

また、そもそも、「現地国の法律遵守」や「環境許認可の提出」等を融資事業に求めるJBIC自身の『環境社会ガイドライン』違反が、地裁判決の確定により明確となったことから、融資契約そのものを早急に破棄するよう要請しました。

JBICは、事業者やインドネシア政府当局の主張だけでなく、住民側の主張にもしっかりと耳を傾けた上で、違法性を排除しきれない許認可に基づき、つまり、JBICガイドラインに違反する可能性を回避しきれない状況下で、チレボン拡張計画に対する新たな融資契約の締結や融資の貸付実行を拙速に行なわぬことが求められています。

以下、NGO3団体から財務省・JBICに充てた要請書の本文です。

要請書本文

2017年8月31日

財務大臣 麻生 太郎 様
国際協力銀行 代表取締役総裁 近藤 章 様
インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業 拡張計画に対する
融資契約の破棄と新たな環境許認可の有効性に関する徹底的な精査を求める要請書

国際環境NGO FoE Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク

私たちはこれまで、「インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業 拡張計画」(2号機。1,000 メガワット)の地元コミュニティーへの環境社会影響、および、違法性に係る高いリスクについて、関連する銀行団に繰り返し伝えてきました。とりわけ、日本政府、および、国際協力銀行(JBIC)に対しては、2016年12月に地元コミュニティーが地元政府を行政裁判所に提訴した件で、環境許認可の取消が司法判断によって確定した場合には、「相手国の法令や基準等の遵守」、および、「相手国政府等の環境許認可証明書の提出」を要件とする『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』(以下、JBICガイドライン)にチレボン拡張計画が違反することが明確になる旨、注意喚起してきました。

貴省、および、貴行もすでにご存知のとおり、現在、西ジャワ州政府の控訴取下げ申請を受け、ジャカルタ高等行政裁判所が2017年8月16日に控訴審の取り止めを決定しました。つまり、チレボン県空間計画の不遵守を理由に、2016年5月11日付発行のチレボン拡張計画に対する環境許認可の無効を宣言したバンドゥン地方行政裁判所の判決が正に確定したことになります。

したがって、この同拡張計画の明確かつ致命的なJBICガイドライン違反から、私たちは、JBICがいかなる融資の貸付も行なうことなく、2017年4月18日に締結したチレボン拡張計画への融資契約を早急に破棄するよう強く要請します。このような違法な事業に継続的にコミットすることは、日本政府、および、JBICの評判を損ねることになります。JBICがチレボン拡張計画への融資契約を破棄することで、JBIC自身のガイドライン遵守を堅持する姿勢を広く示すことが強く求められています。

また、私たちは、JBICが2017年8月14日から環境アセスメント(EIA)報告書の補遺版とともにJBICのウェブサイトで公開を始めた2017年7月17日付発行のチレボン拡張計画に対する別の環境許認可についてもJBICに警告を発します。私たちが理解している限り、同計画に対する別の環境許認可は、2016年5月11日付発行の元の環境許認可の改訂、もしくは、変更を事業者が申請したために出されてきたものです。

しかしながら、上述したように、元の環境許認可は2017年4月19日付の地方行政裁判所の判決に基づき無効であることから、それを改訂、もしくは、変更するいかなるプロセスも進めることはできません。インドネシアの法令や規則には、無効となった環境許認可を改訂、もしくは、変更するための手続きは一切規定されていません。環境許認可の改訂に係る現行の関連条項は、依然有効な許認可のみに適用されるものです。チレボン拡張計画の事業者は、『環境許認可に関する2012年政令第27号』や『環境アセスメント住民参加及び環境許認可に関する2012年環境大臣規則第17号』などによる必要な手続きに則り、適切な住民協議を新たに行なった上で策定された新規のEIAを提出し、新規の環境許認可を申請することが必要です。

したがって、JBICがEIA補遺版や別の環境許認可の内容の精査をするのではなく、まずは、2017年7月17日付発行の別の環境許認可の有効性について、慎重かつ徹底的な確認を行なうよう提言します。また、事業者が別の環境許認可をもって建設作業を進めるとしても、別の環境許認可がさまざまな法的論争(脚注1)を伴うものであり、再び司法判断によって取り消される可能性が高いことについて、JBICは十分に認識すべきです。

裁判所の判決が言い渡される一日前の4月18日に、JBICがチレボン拡張計画に対する融資契約の締結を決定したこと、また、結果として、その決定が違法な環境許認可に基づきなされたことは忘れられるべきではありません。私たちは、JBICが合法性に疑問のある別の環境許認可をもってチレボン拡張計画に対する融資の貸付を行なわないよう、また、JBICガイドラインを違反する可能性を回避できるよう、日本政府、および、JBICが地元コミュニティーや私たち市民社会の注意喚起にしっかりと留意することを再度要請します。

(脚注1)『空間計画法に関する2007年法律第26号』に矛盾する内容を有する『空間計画に関する2008年政令第26号の改定に関する2017年政令第13号』の司法審査の可能性も含まれる。実際、チレボン拡張計画は、依然として、『空間計画法に関する2007年法律第26号』に則り、戦略的環境アセスメントの修正も伴う、『チレボン県空間計画(2011~2031年のチレボン県空間計画に関する2011年条例第17号)』の修正が必要である。

Cc: 独立行政法人 日本貿易保険 理事長 板東 一彦 様

【連絡先】
国際環境NGO FoE Japan(担当:波多江秀枝)
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
Tel:03-6909-5983 Fax:03-6909-5986

(※)インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業
1号機は、丸紅(32.5%)、韓国中部電力(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%)の出資するチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)がインドネシア国有電力会社(PLN)との間で30 年にわたる電力売買契約(PPA)を締結。
総事業費は約8.5億米ドルで、融資総額5.95億ドルのうちJBICが2.14億ドルを融資した。2012年に商業運転が開始されている。
2号機は、丸紅(35%)、Indika Energy(25%)、Samtan(20%)、Komipo(10%)、JERA(10%)の出資するチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)がPLNとの間で25年にわたるPPAを締結。総事業費は約21億米ドルにのぼり、うち8割程度について、JBIC、韓国輸銀、日本・オランダの民間銀行団が融資を検討してきた(仏民間銀行は気候変動への影響を重視し、2017年3月末に銀行団からの撤退を決定)。現場では本格着工に向け、アクセス道路の整備や土地造成作業などが進められており、2021年に運転開始見込み。

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