STOP 日本の化石燃料融資にNO!

日本の商社

日本は、いまだに国内で石炭火力発電所の建設を進め、国外でも複数の石炭火力発電所建設および化石燃料関連事業に関与しています。それらに関わっているのは、東京電力、中部電力、J-POWER(電源開発)といった電力会社だけでなく、日立製作所や東芝、三菱重工などの重電機器メーカー、さらに、丸紅、三菱商事、住友商事、伊藤忠商事といった総合商社です。世界が「パリ協定」で定めた目標に向けて脱炭素を進める中、明らかに逆行する石炭火力発電所の建設は世界からも注視されています。ここでは、日本の総合商社に焦点を当てて、事業実態を示します。

丸紅

丸紅は2018年9月、新規石炭火力発電事業について、例外的に取り組む場合もあるとしつつも、原則として取り組まないとする「石炭火力発電事業及び再生可能エネルギー発電事業に関わる方針」を発表しました。しかし、そのほんの4か月前に融資が決定したベトナム・ギソン2石炭火力発電事業については見直すことなく、そのまま建設を進めています。

石炭火力発電事業によるネット発電容量については、同方針で、2018年度末見通しの約3GWから2030年までに半減させるとしていましたが、2021年3月には「気候変動長期ビジョン」を発表し、2018年9月に発表した方針後の脱石炭火力発電事業の進捗を踏まえて、半減のタイミングを2030年から2025年へ前倒しすると発表しています。しかし、約3GWという大きな容量を、案件ごとにどのように削減していくのか、具体的な計画は明らかにされていません。

問題視されている石炭火力発電所の建設計画

丸紅が関わっている石炭火力発電所建設計画の中には、現地の環境および地域社会への影響が大きいものや、建設に反対する住民との裁判に発展している計画などもあり、世界各地で問題視されています。現地住民の強い反対運動による事業の遅れも生じている上、欧米の銀行や投資家の中には丸紅からのダイベストメント(投資撤退)を進めるところも出てきています。各計画の詳細についてはファクトシート(事業名にリンクあり)をご覧ください。

国名 場所 事業名 発電容量 状況 稼働予定
1 インドネシア 西ジャワ州 チレボン1号機 660MW 稼働中 2012年
2 インドネシア チレボン2号機 1000MW 建設中 2022年
3 南アフリカ リンポポ州タバメシ* タバメシ 630MW 計画中 2021年
4 ボツワナ パラピエ地区 モルプレB 300MW 撤退 (2020年)
5 ベトナム タインホア省 ギソン第2 600MW、2基 建設中 2022年**
6 日本 秋田*** 秋田港(仮)
1号機、2号機
1300MW 計画中止 2024年

補足

*丸紅は2020年11月11日、南アフリカで参画していたタバメシ石炭火力発電所新設プロジェクトから撤退すると発表しています。なお、本件については南アフリカのプレトリア最高裁判所が同月にに建設許可を取り消す判断を下しています。

**ベトナムのギソン第2は、既に建設が開始されていますが計画の遅れにより運転開始予定時期が後ろ倒しになっています。

*** 2019年8月に「秋田港火力発電所(仮称)」の着工見送りが発表されました。その後、2021年4月には検討中止が発表されています。

参考資料

サマリーシート: 「Why Marubeni: なぜ丸紅からダイベストメントする必要があるのか?」
案件ファクトシート:  1. チレボン(インドネシア)、2. パグビラオ (フィリピン)、3. タバメシ (南アフリカ)、4. モルプレ B (ボツワナ)、5. ギソン 2 (ベトナム)、6. 秋田港 (日本)

丸紅の石炭方針

方針記載文書 統合報告書2021
方針概要
  • 新規石炭火力発電事業には取り組まない。
  • 2025年までに石炭火力発電事業によるネット発電容量を2019年3月期末時点の約3GWから半減し、2030年には約1.3GW、2050年までにゼロとする。
  • 一般炭権益に関して、新規の資産獲得は行わない。

丸紅は太陽光や洋上風力発電など再生可能エネルギーの事業も実施しています。しかし、石炭火力発電事業および石炭関連事業から速やかに撤退しなければ、銀行や投資家からダイベストメントされるリスクはむしろ高まっていくと考えられます。

発信情報
日本から発信した要請
国外団体などから発信された要請
  • インドネシアRapel(Rakyat Penyelamat Lingkungan: People Environment Safer)がレターを提出(2019/9/18)(英語PDF・日本語PDF)
  • 350.org (Africa) が、丸紅が南アフリカで進めているタバメシ石炭火力発電事業につき進捗状況を公開するように求める手紙を提出(2019/4/11)(英語PDF)
  • インドネシア・チレボン石炭火力発電事業の現地住民支援を行っている市民団体ラペルおよび環境NGOのWALHI西ジャワが、要請書「Re: Ongoing Serious Impact on the Community and Our Continuous Demand to Stop the Cirebon Coal-fired Power Plant Project – Unit 1 and Unit 2 in West Java, Indonesia」を提出(2019/3/26)(英語PDF)*実際に提出したものにはラペル、WALHI代表の署名が付けられています
他団体や調査団体による丸紅の石炭事業に関する発表・報告書など
  • IEEFA Japan Briefing Note: (2019/3/12)
    Marubeni’s coal exit announcement a good first step but increased commitment needed(英語:Press Release)(IEEFA Briefing Note)
    IEEFA報告書:丸紅の石炭火力事業からの転換方針は最初の一歩だが、さらに踏み込んだ対策が必要(日本語案内)
    IEEFA Briefing Note: Marubeni Update Continuing Coal-fired Power Risks (IEEFA Briefing Note)
  • IEEFA報告書(2018年7月)(リンク)
    石炭火力大手の丸紅は世界的な再生可能エネルギーへの転換に応じなければならない(日本語PDF)
    Marubeni’s Coal Problem A Japanese Multinational’s Power Business is at Risk(英語PDF)
  • Urgewaldレポート(2018年10月)
    The 2018 Coal Plant Pipeline – A Global Tour (英語PDF)

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三菱商事

三菱商事は『ESGデータブック2018』を2019年10月に改定し、原則、新規の石炭火力発電の開発を行わない方針を発表しました。しかし、ベトナム・ブンアン2石炭火力発電所、ビンタン3石炭火力発電所、福島県の勿来および広野発電所の、計4つの案件は同方針の対象外とし計画を継続してきました。その後、2021年3月には、ビンタン3については撤退が報じられましたが、ブンアン2は同年に土地造成に取りかかっています。また、同年6月にはベトナム・クアンチャック石炭火力発電所のEPC請負契約を締結しています。

三菱商事の石炭方針

方針記載文書 サステナビリティ・レポート2020(2021年8月31日時点)
方針概要 石炭火力発電事業(IPP)

  • 受注済みのベトナム・ブンアン2案件を最後として今後新規の石炭火力発電事業は手掛けない。
  • 段階的に撤退することで、持分容量を2030年までに2020年(開発中・建設中案件を含め約220万kW)比で3分の1程度まで削減し、2050年までに完全撤退する。
  • 燃料転換等による火力発電事業全般での低炭素化にも取り組む。
  • 2050年までには、二酸化炭素を排出しないゼロエミッション火力への切替えによる火力発電事業の脱炭素化の実現と再生可能エネルギー事業の更なる拡大により、発電事業における非化石比率100%を目指す。

石炭火力発電所建設工事請負(EPC)

  • 受注済みのベトナム・クアンチャック案件を最後として、今後新規の石炭火力発電所建設工事請負には取り組まない。
  • アフターサービスについては、発電事業者に対して契約上の履行義務を負う場合や、発電事業者又は発電設備メーカーから要請された場合に限り取り組む。
  • 既存の石炭火力発電設備の環境負荷を低減するための追加工事については、実効性を見極めながら、低・脱炭素社会につながる取り組みとして継続する。

一般炭

  • すべての権益を売却済。
三菱商事が計画中の2つの新案件
発電所名 発電規模 三菱商事持分容量推計 運転開始予定
1 ベトナム ブンアン2石炭火力発電所 600MW×2基 480MW 2024年
2 日本 大型石炭ガス化複合発電設備実証計画(広野) 543MW 217MW 2021年

注)上記以外にも複数の既存の石炭火力発電事業の持分あり。

注目されるベトナムの事業計画

ベトナムは、気候変動影響を受けやすい国の一つでもある上、近年の経済発展にともない工業化が進む中で、環境汚染、特に大気汚染が深刻化しています。

世界的に再生可能エネルギーのコストが急激に低下していることにより、石炭火力発電所の優位性が失われつつあることにも注視すべきです。英金融シンクタンクCarbon Trackerは、ベトナムでは早くて2022年には、新規の太陽光発電所を建設する方が既存の石炭火力発電所を稼働するよりも安価になると分析しており、新規の石炭火力への投資だけでなく、既存の石炭火力の経済性も問うべきだと述べています。パリ協定ではベトナムを含めた途上国も温室効果ガスの削減努力が求められています。現在計画中の石炭火力発電所が建設され、稼働することになると、その後数十年に亘る運転期間中のCO2大量排出が固定化されてしまい、途上国の気候変動対策に大きな影響を及ぼすこととなります。

このような状況において、三菱商事がこれからクアンチャック石炭火力発電所を建設したり、ブンアン2事業を展開しようとしていることは、脱石炭の流れに逆行し、環境汚染を悪化させて住民に健康被害を及ぼすだけでなく、経済的なリスクと気候変動対策におけるリスクをベトナムに課すことになると懸念されます。

福島での計画

三菱商事は、2016年8月2日、広野IGCCパワー合同会社(Hirono IGCC Power GK)、勿来IGCCパワー合同会社(Nakoso IGCC Power GK)を設立し、福島県内で2つの大型石炭ガス化複合発電(IGCC)の実証計画を進めてきました。勿来は2021年4月から営業運転を開始しており、広野は2021年3月にガス化炉設備における石炭点火を行っています(当初の予定は2021年9月に運転開始、11月時点では営業運転開始は未定)

事業者は、IGCCを「発電効率と環境性能が向上した次世代のクリーンコールテクノロジー」だとしていますが、如何に高効率と言ってもLNG火力に比べると約2倍のCO2を排出するだけでなく、汚染物質の排出量を見ても、決して「クリーン」な技術とは言い難いものです。さらに、IGCCは建設コストが通常の石炭火力発電所に比べて2割程度高いと言われており、経済的に競争力がないことが示されています。

参考:気候ネットワーク レポート「世界中で失敗が続くIGCC (石炭ガス化複合発電) 高コストで、大量のCO₂を排出」(PDF)

隠されたコジェネ

同社のコジェネレーション事業の中には、石炭火力発電所とは別に3件の石炭を燃料とした事業が含まれています。これらについても、脱炭素社会に向けた具体的な削減策の検討が望まれます。

コジェネレーション案件

国名 発電所名 持ち分容量(Net) 燃料
日本 MC塩浜エネルギーセンター 98 MW ガス・石炭
日本 MCMエネルギーセンター 52 MW 石炭・バイオマス混焼
日本 水島エネルギーセンター 56 MW 石炭
計206 MW
参考資料
  • サマリーシート: 「Why Mitsubishi Corp.: なぜ三菱商事からダイベストメントする必要があるのか?」
発信情報
日本から発信した要請
  • 【共同声明】三菱商事はベトナム・クアンチャック1石炭火力発電所EPC事業から撤退を(2021/6/30
  • 【プレスリリース】39カ国の128団体が日本の官民にブンアン2石炭火力からの撤退を要求(2021/1/25
  • 【プレスリリース】国内環境団体、石炭火力発電事業を続ける三菱商事の主要株主98機関にダイベストメントを求める要請書を送付(2020/12/23
  • 【プレスリリース】 石炭火力を推進する三菱商事の主要株主及び融資銀行 51社に対して ダイベストメントを求める要請を送付(2020/03/23
  • 【共同声明】三菱商事の石炭火力発電方針に対するNGO共同声明書(2019/10/21 )

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住友商事

2019年8月、住友商事は「統合報告書2019」において、今後、石炭火力発電事業について新規の開発を行わないとの方針を発表しましたが、ベトナム・バンフォン石炭火力発電事業については、個別に判断するとして関与を続け、結局、同年に着工しました。石炭火力の建設工事請負については、2021年5月の「気候変動問題に対する方針」において、新規には取り組まないと明記。今後検討する可能性がある例外として挙げていたバングラデシュ・マタバリ3号機と4号機については、同方針の2022年2月改定で削除しました。

住友商事の石炭方針

方針記載文書 気候変動問題に対する方針(2022年2月に見直し)
方針概要
  • 発電事業については、持分発電容量ベースで2020年時点で石炭 50%、ガス 30%、再エネ 20%から2035年 石炭 20%、ガス 50%、再エネ 30%とする。
  • 石炭火力については、新規の発電事業・建設工事請負には取り組まない。
  • 石炭火力発電事業については、2035年までにCO2排出量を60%以上削減(2019年比)し、2040年代後半には全ての事業を終え石炭火力発電事業から撤退する。
  • 一般炭鉱山開発事業については、今後新規の権益取得は行わず、2030年の一般炭鉱山からの持分生産量ゼロを目指す。
発電所名 発電規模 住友商事持分容量推計 運転開始予定
1 インドネシア タンジュン・ジャティB石炭火力発電事業・再拡張 1,000MW×2基 2021年(2017年3月着工)
2 ベトナム バンフォン1石炭火力発電事業 660MW×2基 1320MW 2023年(2019年8月着工)

日本から発信した情報

  • 【NGO共同声明】住友商事の新石炭火力方針には依然として抜け穴が~マタバリ3&4号機の建設工事入札への不参加を~(2021/5/10
  • 【共同声明】住友商事の石炭方針に対するNGO共同声明 (2019/08/21)
  • 【要請書提出】環境NGO5団体、住友商事に対し、ベトナム・バンフォン石炭火力発電事業の中止を要請 (2018/08/08)

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