STOP 日本の化石燃料融資にNO!

世界23カ国61団体が緊急要請 JBICはギソン2石炭火力発電所事業に対する融資決定の撤回を!

日本の公的金融機関である国際協力銀行(以下、JBIC)が、ベトナム・ギソン2石炭火力発電所事業(タインホア省ギソン地区。超臨界圧。600MW×2基)への融資を決定したことに対し、本日、早急な融資撤回を求める国際要請書(23カ国61団体賛同)を日本政府およびJBICに提出しました。

気候変動対策の観点から、脱炭素化の取り組み、とくに石炭火力関連事業からの脱却の流れが世界で強まる中、日本も自らが批准するパリ協定に沿った方針へと速やかに舵を切るべきです。また、同事業は、日本政府の「原則、超々臨界圧の石炭火力発電所を支援する」という現方針にさえ反する効率の劣る「超臨界圧」の石炭火力発電事業です。さらに、JBICは入手後速やかに公開するとしている環境影響評価を半年以上も公開していなかったことから、融資決定プロセスの透明性にも問題があったとして、市民団体らが指摘をしていました。

詳細および署名団体一覧は要請書(PDF)をご覧ください。
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内閣総理大臣 安倍 晋三 様
財務大臣 麻生 太郎 様
国際協力銀行 代表取締役総裁 近藤 章 様

国際要請: JBICはギソン2石炭火力発電所事業に対する融資決定の撤回を!

 2018年4月26日

私たち、以下に署名する61団体(23ヵ国)は、国際協力銀行(以下、JBIC)がベトナム・ギソン2石炭火力発電所事業(タインホア省ギソン地区。超臨界圧。600MW×2基)への融資を決定1したことに対し、その撤回を求めます。

1. パリ協定と矛盾する石炭火力発電所の新設支援

2015年にパリ協定が採択され、地球の平均気温の上昇を1.5度〜2度未満に抑えることが国際的に合意されました。パリ協定はすでに2016年に発効し、日本も批准しています。すでに世界中で気候変動被害が広がる中、温室効果ガスの排出削減は急務です。国連環境計画(UNEP)の排出ギャップレポート2によれば、新規の石炭火力発電所建設は、この目標と整合性を持たないことが明らかになっています。

2. 日本政府の方針との不整合
2018年1月、日本政府は石炭火力発電への公的支援に関して「OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、原則、世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援する」との方針を発表しました3。しかし、今回JBICが融資を決定したギソン2石炭火力発電所は、超臨界圧(SC)の石炭火力発電事業であり、原則で謳うよりも劣る技術の支援になります。

JBICはOECD 公的輸出信用アレンジメント(OECDルール)4の経過措置に言及し、OECDルールの施行前(2017年1月1日前)に同事業の融資要請があり、2015年に環境社会影響評価(EIA)が相手国政府によって承認されていることを確認したとして、SC技術が利用される同事業の支援についてOECDルールに違反しないとの見解を示しています。しかし、後述の通り、JBICは2017年5月から6月にかけて事業者からEIAと環境許認可証明書を受け取っており、OECDルールの経過措置の規定で求められている「完成したEIA等に基づいた融資申請」は施行日以降であったことは明らかです。したがって、本事業への融資は日本政府の方針にも反するものです。

3. 追加的環境社会影響評価及び公開の必要性
JBICが事業者から受け取っている本事業のEIAは、同経済区内に建設されたニソン製油所の環境影響を考慮したものになっていないことも問題です。JBICによれば、事業者はニソン製油所の影響を加味した追加的な環境影響調査を行っているとのことですが、その結果は公開されていません。JBICの『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン(以下、ガイドライン)』において、累積的影響を「検討する影響のスコープ」として規定していることを鑑みても、事業者が行ったとされる追加的影響調査の結果が公開され 、ギソン2石炭火力発電所における環境対策にしかるべき処置がなされているか説明責任が果たされるべきです。そもそも本事業計画のEIAが作成されてから、すでに3年近く経過しており、製油所の稼働開始など現地の環境に大きな変化がある以上、EIAそのものがやり直されるべきです。

4. 環境社会影響評価報告書及び環境許認可証明書の公開時期
JBICによれば、JBICは同事業のEIAと環境許認可証明書をそれぞれ2017年6月16日と2017年5月12日6に受け取っています5。ガイドラインでは「カテゴリ A および B のプロジェクトについては、」「環境社会影響評価報告書等の入手状況及び環境社会影響評価報告書等」につき、「情報公開は、原則として当行ウェブサイトにおいて、情報の入手後できるだけ速やかに行うものとする」と規定しています。しかし、この事業のEIAの掲載日は2018年2月6日でした。半年以上も同事業の「環境社会影響評価報告書等の入手状況及び環境社会影響評価報告書等」が公開されなかったのは、明らかに同ガイドライン違反にあたると考えます。これは速やかに公開されるべきであったと同時に、公開が遅れた理由についてもJBICは説明責任を追うべきと考えます。

5. ベトナム国内の大気汚染及び再生可能エネルギーの開発ポテンシャル
ベトナムでは大気汚染の問題が深刻になっており、石炭火力発電所からの排出も一因とされています6。石炭火力発電所由来の大気汚染が早期死亡率につながっていることも報告されており、ベトナムを含む東南アジア地域で現在計画中あるいは建設中の石炭火力発電所がすべて稼働した場合のシミュレーションによると、ベトナムは2030年までにASEAN諸国の中で汚染のひどい国の上位に位置づけられ、大気汚染による早期死亡者の数は年間2万人にのぼると推定されています7 。

同時にベトナムでは近年、再生可能エネルギーの開発が進み、ベトナム政府が昨年発表した「ベトナム・エネルギー・アウトルック2017」には、2035年までに40GWの太陽光、12GWの風力、3.7GWのバイオマス発電の開発ポテンシャルがあるとの推定が記されています8 。バクリュウ省では国際協力機構(JICA)が協力準備調査を行った石炭火力発電事業の開発が、大気汚染への懸念などを理由に中止され、風力発電に切り替えられました9。

エネルギーへのアクセスを確保することは、人々の権利であり、生活に欠かせないものです。しかし、エネルギー開発は現地の住民の声や、環境影響、気候変動、持続可能性に配慮したものであるべきです。

私たちは、同事業に対するJBICの融資決定前から上述の問題点等を指摘し、面談等で意見交換を行ってきました。それにもかかわらず、JBICの説明責任がしっかりと果たされることのないまま、またガイドラインに明らかに違反している状態で、JBICが融資決定に踏み切ったことは、拙速な判断であると言わざるをえません。

私たちはJBICがギソン2石炭火力発電所事業への融資を早急に撤回することを求めます。

注釈:
1: JBIC“ベトナム社会主義共和国ギソン2石炭火力発電事業に対するプロジェクトファイナンス及びポリティカル・リスク保証” 2018年4月13日, https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2018/0413-010921.html
2: 国連環境計画「排出ギャップレポート」2017, https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/22070/EGR_2017.pdf
3: 中川環境大臣記者会見録、2018年1月30日、 http://www.env.go.jp/annai/kaiken/h30/0130.html
4: OECD, “Sector Understanding On Export Credits For Coal-Fired Electricity Generation Projects”, 2015/11/27
5:“Hanoi air is unsafe most of the time, coal plants blamed” VN Express, 9th Sep 2017 https://e.vnexpress.net/news/news/hanoi-air-is-unsafe-most-of-the-time-coal-plants-blamed-3638973.html
6: FoE Japan の問い合わせに対する JBIC からの電話回答(2018/4/6)
7: S. Koplitz et. “Burden of Disease from Rising Coal-Fired Power Plant Emissions in Southeast Asia”, Environ. Sci. Technol. 2017, 51, 1467−1476 http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.est.6b03731
8:“MoIT & Danish energy ministry release Vietnam Energy Outlook Report” Vietnam Economic Times, 21st Sep 2017, http://vneconomictimes.com/article/vietnam-today/moit-danish-energy-ministry-release-vietnam-energy-outlook-report
9: “Vietnam province scraps coal plant over environmental concerns”, VN Express, 26th Sep 2016, https://e.vnexpress.net/news/news/vietnam-province-scraps-coal-plant-over-environmental-concerns-3476051.html