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【要請書提出】インドネシア・インドラマユ石炭火力 JICAの公的支援停止を求める要請書を提出

日本の16市民団体、JICAの公的支援停止を求める要請書を提出

昨年末に事業に反対する農民らが不当逮捕されるなど、地元で深刻な人権侵害が続いているインドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画について、1月17日、日本の16市民団体から安倍 内閣総理大臣、河野 外務大臣、北岡 国際協力機構(JICA)理事長に対し、日本の公的資金をこれ以上供与しないよう求める要請書を提出しました。

 

 

 

 

 

(写真左)警察や軍、チンピラの存在にも屈せず、事業者が強行しようとするアクセス道路の工事を止めようとする農民ら。(2017/11/29 現地からの写真)
(写真右)地元警察による不当逮捕や取調べなどの人権侵害についてインドネシア国家人権委員会に報告する住民ら。(2018/1/12 FoE Japan撮影)

同要請書では、以下の5つの観点から同事業・拡張計画への公的支援を日本政府・JICAが行なうべきでない理由を述べています。

1.社会的合意の欠如と対立の深刻化
2.環境許認可発行手続きと環境アセスメントの内容等における違法性
3.人権状況の悪化 ― 基本的人権の侵害
4.世界の気候変動対策と逆行する日本への国際的な批判
5.事業の妥当性への疑問

同事業・拡張計画は、JICAがすでに調査・設計を支援し、これから建設事業の円借款を検討しようとしていますが、農地や漁場など生活の糧を奪われると、地域住民が強く反対してきました。2017年7月には、住民3名が原告となり、同計画への環境許認可が地元政府により不当に発行されたと行政裁判所に提訴。その結果、昨年12月初めには住民の訴えが認められ、同計画への環境許認可の取消しが言い渡されました

しかし、現在、地元警察による住民の不当逮捕や取調べなど、住民勝訴で勢いづく反対派住民への弾圧とも言える人権侵害が続いています。こうした公権力による強硬な行為は、住民のなかに恐怖感を残し、少なからぬ住民が反対運動への参加を躊躇することにつながる可能性もあり、人権擁護の観点から大変憂慮されます。

日本政府が掲げる開発協力大綱でも、「開発協力の適正性確保のための原則」として、「当該国における民主化、法の支配及び基本的人権の保障をめぐる状況に十分注意を払う」ことが明記されており、日本政府は、地域住民が自由に反対の声をあげることができない、つまり、表現の自由など基本的人権が確保されていない状況にある事業への支援を決してすべきではありません。

折しも、今週1月20日には、自民党の二階俊博幹事長が安倍首相の特使としてインドネシアを訪問し、日本・インドネシアの国交樹立60周年の祝賀式典に出席予定です。日本政府として、60年に及ぶ日本のインドネシアへの協力や支援がインドネシアの住民一人ひとりのニーズや意見を反映したものとなるよう、地域住民の声に真摯に耳を傾け、同事業・拡張計画への借款供与についても、インドネシア政府に対して毅然とした態度で臨むことが求められています。

以下、要請書の本文です。脚注も含めた全文はこちらのPDF版でご覧ください。

要請書本文

2018年1月17日
内閣総理大臣 安倍 晋三 様
外務大臣 河野 太郎 様
国際協力機構 理事長 北岡 伸一 様

インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画に対する日本の公的支援の停止を求める要請書

インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(1,000 MW) に対しては、国際協力機構(JICA)が2010年に実行可能性調査(F/S)を実施した後、2013年3月に基本設計、入札補助、施工監理等を対象としたエンジニアリング・サービス(E/S)借款貸付契約(17億2,700 万円)を締結し、融資を供与中です 。また、今後、相手国政府からの正式な円借款要請があれば、本体工事に対する融資検討を行なう予定であると理解しております。

しかし、同拡張計画をめぐっては、以下に詳述するとおり、社会的合意の欠如や違法性等といった問題点に加え、同事業に反対する住民の不当逮捕という弾圧とも言える大変深刻な人権侵害が起きています。また、国際的には昨年の国連気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)でも見られたように、日本政府の石炭火力発電所の輸出方針が気候変動対策の観点から批判を浴びている他、インドネシア国内ではジャワ・バリ系統における電力供給過剰の状況やインドネシア国有電力会社(PLN)の財務状況の悪化のため、現行の電力開発計画の見直しを求める声が政府内部からもあげられています。こうしたさまざまな観点から、私たちは、日本政府・JICAがインドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画に対するE/S借款の貸付をこれ以上行なわぬよう求めるとともに、本体工事に対する相手国政府からの円借款要請があった場合でも、融資検討を行なわぬよう強く要請します。
1.社会的合意の欠如と対立の深刻化
インドラマユでは、同拡張計画の隣接地にすでに石炭火力発電所(330 MW×3基)が建設され、2011年に商業運転を開始しています 。地域住民は同既存発電所によって、農業 ・漁業 など生計手段への被害や健康被害 に直面してきました。同拡張計画は、この既存発電所よりも広い農地が収用され 、より大型の埠頭等が沿海域に建設される予定です。また、世界的に見ても緩いインドネシアの大気汚染基準は満たすものの、日本の石炭火力発電所で利用されているような最良の公害対策技術が利用されるわけではありません 。地域住民は、同拡張計画による新規発電所の建設・稼働によって、これまで受けてきた被害がさらに拡大することを懸念しています。

同拡張計画で最も影響を受けるのは、生計手段や収入機会の喪失・減少などに直面する小作農や農業労働者、そして、小規模漁民です。しかし、同拡張計画の環境アセスメントや土地収用プロセスの初期段階において、こうした死活問題に直面する社会的弱者の住民層に対する情報公開や住民協議は一切行なわれておらず、意思決定プロセスへのアクセスを確保するための適切な配慮もなされていませんでした。地域住民は、自分たちの生活の糧である農地や海を守り、きれいな環境を維持したいと同拡張計画の中止を求め、2016年から地元や首都ジャカルタでの抗議活動を繰り返し行なっています。

一方、事業者であるPLNは、こうした住民の懸念や反対の声を無視したまま、2016年12月に土地収用関連の補償支払いを開始 し、また、2017年4月にアクセス道路の建設工事を開始しました。また、2017年5月下旬には、事業予定地内の農地に「公有地に侵入/利用すると、刑法で処せられる可能性がある。刑法167条 禁固9カ月、刑法389条 禁固2年8カ月、刑法551条 罰金。」と記載された掲示板を立てるなど、あくまでも事業推進の姿勢を崩していません。こうした動きに対し、同拡張計画の土地収用で生活の糧を失ってしまう小作農や農業労働者は、刑事罰に処されるリスクを抱えながらも、掲示版が立てられた農地でコメや野菜の耕作を続け、2017年7月5日には後段のとおり、同拡張計画の中止を目的とした訴訟を始めました。

しかし、係争中であるにもかかわらず、2017年7月20日には、同訴訟の原告2名が耕作を続けている農地の一部で、事前通告等は一切ないままアクセス道路用の土入れが行なわれ、その前日に植えたばかりだった苗が台無しにされてしまいました。農民らはそれ以上のアクセス道路工事の進捗をくい止めるため、2017年7月下旬以降、ピケットラインを張って毎晩交代で工事現場を見張るとともに、PLNの下請け業者が重機等で工事を進めようとする度に工事現場で抗議活動を行なっています。現場では、一触即発の緊迫した状況が続いており、また、インドネシア政府側による強制退去が起きる可能性も否めません。実際、2017年11月29日には、重機を運んできた下請け業者側が、工事を止めようとした住民側に暴力をふるう事態も起きています。

このように、同拡張計画については、『国際協力機構 環境社会配慮ガイドライン』(以下、JICAガイドライン)で要件とされている「社会的合意」が確保されているとは言えない状況があります。また、インドネシア政府側が、ガイドラインで規定されている「十分な調整」、「早期の段階での情報公開や地域住民との十分な協議」、そして、「社会的弱者への適切な配慮」を行なわず、事業ありきの強硬な姿勢をとり続けているため、反対派住民との対立は深まる一方であり、同拡張計画に対する「社会的合意」を今後、適切な方法で形成していくことも極めて困難な状況になっています。

同拡張計画に反対する住民グループは、すでに日本政府・JICAに対し、自分たちが同拡張計画に反対する理由やプロセスの問題点を書簡 や会合 で伝え、同拡張計画への支援をこれ以上行なわぬよう要請してきました。社会的合意が著しく欠如しているにもかかわらず、日本政府・JICAが円借款を供与し、同拡張計画の基本設計、入札補助、施工管理等、あるいは、本体工事を支援することは、強引に事業を推進しようとしているインドネシア政府・PLNを後押しすることに他ならず、住民との対立も助長するだけです。したがって、日本政府・JICAは、インドネシア政府側だけでなく、住民の懸念・反対の意見にも真摯に耳を傾け、同拡張計画への一切の支援を停止すべきです。

2.環境許認可発行手続きと環境アセスメントの内容等における違法性
同拡張計画に反対する住民グループは、2017年7月5日、インドラマユ県知事 が同拡張計画(1,000 MW × 2基)への環境許認可(2015年5月26日付)を不当に発行したとして、バンドン行政裁判所で同許認可の取消しを求める訴訟を起こしました。原告は3名で、同拡張計画の事業予定地内の農地で農業労働をしたり、沿岸部で小エビ獲りをしてきた住民です。

原告の訴状では、以下のような環境許認可の発行手続き、および、環境アセスメント の策定プロセスや内容等がインドネシアの関連法規に違反していることが指摘されました。
(1) インドラマユ県知事は、環境許認可を発行する権限を有さない。同拡張計画は、埠頭建設など海域での事業活動を含むことから、環境許認可の発行の権限は西ジャワ州に帰する。
(2) インドラマユ県知事による環境許認可は、インドラマユ県書記官の書簡(2011年12月2日。環境アセスメント文書および環境管理・モニタリング計画文書に係る合意書簡)に基づき発行されているが、環境許認可は『環境実施可能性決定書』に基づき発行されなくてはならない。
(3) 環境許認可の発行にあたり、影響を受ける住民への情報公開が不十分であり、住民の参加の機会もなかった。原告を含む影響住民が同許認可について知ったのは、2017年6月12日であった。
(4) 環境アセスメント文書が法的不備、誤り、文書および/もしくは情報の誤用といった問題を孕んでおり、相当の欠陥を有している。たとえば、環境アセスメントは既存発電所が稼働する以前の2010年に準備されたため、稼働後に変化した大気・海洋等の環境状況を考慮しないものになっている。
(5) インドラマユ県知事による環境許認可の発行は、法的安定性の原則、正確な行動原則、権力の濫用をしない原則、透明性の原則、良質な奉仕の原則といったグッド・ガバナンスの原則に違反している。

同拡張計画に係るこうした違法性は、バンドン行政裁判所で2017年8月2日に始まった公判、および、担当判事による2回の現地視察のなかで審理されてきました。そして、11月22日の結審後、12月6日には、同行政裁判所が住民の訴えを認め、環境許認可の取消判決を言い渡しています 。

今後は、被告であるインドラマユ県知事、および、PLNがすでに控訴することを正式に表明しており、ジャカルタ高等行政裁判所での訴訟がつづく見通しであることから、環境許認可は依然法的に有効と見なされることになります。実際、現場では、地元村長から耕運機の所有者に対して2017年12月15日付で警告書が出されており、事業予定地での耕運機使用を制限する、つまり、農民による耕作を禁止しようとする動きが見られる他、12月22日には、PLNが事業予定地の境界線上にコンクリート棒を埋めるなど、インドネシア政府側は第一審での敗訴にもかかわらず、事業推進の姿勢を変えていません。

しかし、日本政府・JICAとしては、相手国の高裁、もしくは、最高裁で環境許認可の取消しが確定する可能性、つまり、同拡張計画が違法であることが確定する可能性がある以上、事業の実施見通しが不確定である同拡張計画に対し、いかなる公的資金の供与も行なうべきではありません。また、地域住民の権利と相手国における司法判断も尊重するべきです。したがって、少なくとも相手国における司法判断が高裁、もしくは、最高裁で確定するまでは、今後のE/S借款の貸付実行は控えるべきであり、また、本体工事に対する相手国政府からの円借款要請があった場合でも、融資検討を行なうべきではありません。

また、JICAガイドラインでは、「相手国及び当該地方の政府等が定めた環境や地域社会に関する法令や基準等を遵守」すること、および、カテゴリA案件については「環境アセスメント報告書と環境許認可証明書」を提出することが明記されています。つまり、高裁、もしくは、最高裁で同拡張計画の環境許認可が取り消され、違法であることが確定すれば、同時にJICAガイドライン違反にもなるということです。したがって、日本政府・JICAは、現在、E/S借款のモニタリング段階にある同拡張計画において環境社会配慮上、最も重要なプロセスと言える環境アセスメントおよび環境許認可について違法性が指摘されている事実に鑑み、環境社会配慮の実施状況等の確認やE/S借款契約に基づく相手国等に対する事態の改善要求、あるいは、相手国等の対応が不適当な場合にはE/S借款契約に基づく貸付実行の停止等、ガイドラインの「3.2.2モニタリング及びモニタリング結果の確認」に則った措置をとるべきです。

3.人権状況の悪化 ― 基本的人権の侵害
同拡張計画に係る深刻な人権侵害については、すでに2016年12月29日付でJICAに宛てた「土地収用プロセスにおける人権侵害に関する緊急要請書」(添付資料1)のなかでも問題点を指摘してきました。特に、土地収用プロセスにおけるPLN職員による地元の軍・警察関係者の帯同が常態化しており、また、同拡張計画に反対する住民グループのリーダーに対して地元の軍・警察関係者による脅迫行為がみられたことから、同拡張計画に係るあらゆる住民協議等のプロセスにおける軍・警察関係者の関与の一切の停止と住民の自由な意思表示、および、適切な参加の確保をJICAがインドネシア政府、および、PLNに対して申し入れるよう要請しました。

しかし、今日まで、現地での人権状況は改善されるどころか、悪化の一途を辿っています。前述したアクセス道路の工事現場では、住民グループが抗議活動を行なう度に地元の軍・警察関係者によるPLN側の護衛が常態化しており、住民側への無言の圧力となっていることは否めません。

また、2017年12月初めに同拡張計画に反対する住民グループが行政裁判で勝訴して以降、地元警察が住民側を「犯罪者扱い」する弾圧が始まっています。まず、住民グループの農民3名が2017年12月17日の夜中1時に彼らの家にやって来た地元の警察に不当逮捕されるという事態が起こりました。住民グループはこれまで、同拡張計画に反対する横断幕とともにインドネシア国旗を掲げながら抗議活動を続けてきましたが、12月14日も同様に、同拡張計画への反対継続の意思を示すため、同農民らが国旗と横断幕を自分たちの村に取り付けたところでした。そのインドネシア国旗を上下逆に掲げたという「国旗侮辱罪」で逮捕状が出されたということです。同農民3名は17日の夜23時にインドラマユ県警から釈放されましたが、保釈の身として、地元警察に対する週2回の報告義務を課せられました。現在も、週1回の報告義務は続いており(2018年1月10日時点)、行動の自由を依然制限された状態です。しかし、隣人の証言や証拠写真によれば、そうした罪状が言いがかりであることは明らかであり、住民グループと現地NGOは、同農民らの保釈状態からの無条件での解放と警察による公正な調査を要求しています。

地元警察による反対派住民の「犯罪者扱い」は、この3名だけでは終わらず、増える様相すら見せています。2017年11月29日にアクセス道路の工事現場で行われた住民グループによる抗議活動中にPLNの下請け業者側が暴行をふるわれた刑事犯罪の調査という理由で、2017年12月21日付の通知がインドラマユ県警から出されており、複数の住民が1名ずつ異なる日時に警察への出頭要請を受けています。

こうした警察による「犯罪者扱い」の行為は、インドネシアで開発事業に反対する住民に対し頻繁に起きている人権侵害であり 、同拡張計画においても住民勝訴で勢いづく反対派住民を黙らせようとする弾圧に他なりません。このような公権力による強硬な行為は住民のなかに恐怖感を残し、少なからぬ住民が萎縮して反対運動への参加を躊躇することにもつながりかねず、人権擁護の観点から大変憂慮されます。このままでは、JICAガイドラインの規定する「ステークホルダーの意味ある参加」は確保されることもなく、小作農や農業労働者の農地からの強制退去といった抑圧的な形で同拡張計画が進められてしまうことが危惧されます。

開発協力大綱でも、「開発協力の適正性確保のための原則」として、「当該国における民主化,法の支配及び基本的人権の保障をめぐる状況に十分注意を払う」ことが明記されており、日本政府は、地域住民が自由に反対の声をあげることができない、つまり、表現の自由など基本的人権や適切な住民参加が確保されていない状況にある事業への支援を決してすべきではありません。資金供与をすれば、人権侵害に加担していることと同じであり、現在の人権状況に満足しているという誤った認識を相手国政府や事業者に与える恐れもあります。

私たちは、日本政府・JICAがE/S借款のモニタリング段階にあることから、同拡張計画の現場の人権状況についてもその実態を把握する責任と義務があると考えます。日本政府・JICAは同拡張計画に係る人権状況に関し、現地における表現の自由など『基本的人権の保障状況』について徹底した事実確認・調査を行なうべきです。そして、その事実確認・調査は、PLN、および、インドネシア政府関連当局に対する確認のみでなく、住民、NGO、第三者への確認も含まれなくてはなりません。

また、同拡張計画については、すでにJICAからPLNに対し、地元の軍・警察関係者の関与も含め、数度にわたり人権状況の確認がなされてきたと理解しております。しかし、状況が改善されるどころか、悪化している実態を踏まえ、日本政府・JICAはインドネシア政府側に対し、日本が関与している事業地での人権侵害について強い懸念を表明するとともに、こうした深刻な人権侵害が起きている事業への支援はできぬ旨をより明確な形で伝えるべきです。

4.世界の気候変動対策と逆行する日本への国際的な批判
気候変動への影響を考慮し、すでに数年前から欧米をはじめとする各国の公的機関や民間企業は石炭関連事業への投融資からの撤退を始めています。また、2016年には各国が炭素排出を減らす役割を担うこととなったパリ協定も発効しました。国連環境計画は2017年の排出ギャップレポート の中で、パリ協定に書き込まれた温室効果ガス排出量削減目標となる1.5°C目標の達成のために、新規の石炭火力発電所の建設は科学的に許されず、既存の石炭火力発電所も早期の閉鎖が必要であると警鐘を鳴らしています。それにもかかわらず、この先、何十年も炭素排出を続けることになる新規の石炭火力発電所建設を現在も国内外で推進している日本の姿勢に対しては、国際的な批判の声が高まってきています。

2017年11月に開催された第23回気候変動枠組条約締約国会議(COP23)の期間中も、国際協力銀行(JBIC)がインドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業の拡張計画(1,000 MW)への初回貸付を実行したことから、パリ協定や1.5°C目標に沿って世界が劇的な炭素排出削減に向けて行なっている努力を蔑ろにしているとして、日本政府への強い抗議が国際社会から示されました(添付資料2)。

インドラマユ石炭火力・拡張計画についても、すでに2014年のCOP20で、高効率の石炭火力発電所を炭素排出削減対策として支援し続ける日本政府の姿勢が批判される 種となっていました。JICAのF/S(2010年)によれば、超臨界圧の技術を使用する場合と比較し、より効率性の高い超々臨界圧(USC)の技術を使用する同インドラマユ石炭火力・拡張計画では、発電所1基(1,000 MW)で年間334,000トンのCO2排出量が削減可能という数字が示されています。そして、日本政府・JICAは、同拡張計画に対するE/S借款について、「気候変動対策円借款」供与条件を適用しました。しかし、最先端の高効率石炭火力発電技術を用いたとしても、1キロワット時あたりの炭素排出は他のいかなるエネルギー源よりも大きく、実際、同インドラマユ拡張計画の発電所が稼働した場合も、発電所1基で年間5,749,200トンのCO2排出量が見込まれ、それが何十年も続くことになります。

こうした高効率の石炭火力発電所への支援が「気候変動対策」になるという日本政府の姿勢は、脱炭素化の流れが加速化する世界のなかで、一層受け容れられないものとなってきています。日本政府は今後もJBICやJICAを通じて、インドネシアやベトナム、ミャンマー、バングラデシュ、ボツワナなどで建設が予定されている新規の石炭火力発電所に対して融資を行なうことが予測されていますが、気候変動の影響を重視した世界での石炭関連事業からの投融資撤退の動きを直視し、インドラマユ石炭火力・拡張計画に対するE/S借款や本体借款をはじめとするあらゆる新規石炭火力発電事業からの投融資撤退へと直ちに方針を転換すべきです。

5.事業の妥当性への疑問
同拡張計画に対するE/S借款決定時のJICA資料 によれば、同拡張計画の目的は、建設予定の発電所が電力を供給することになるジャワ・バリ系統での電力需給逼迫の緩和及び供給の安定性の改善を図ることとされています。また、事業背景として、2011年のPLN電力供給総合計画(RUPTL)(2011-2020)を参照し、インドネシア全体の電力需要が2020年までに年平均約8%で伸びる見込みであり、ジャワ・バリ系統における電力ピーク需要が2011年の19,739MWから2020年までには38,742MWに達する見込みであることから、2011年時点で27,091MWしかない発電容量に対して、新たな電源開発が急務であるとの説明が示されていました。こうした新しい電源開発を推進する方針は、2014年10月に誕生したジョコ・ウィドド政権下でも基本的には継承され、電力需要の伸びを年平均約8%と見込み、中期目標としてインドネシア全体で2019年までに35,000MWの発電設備容量を増加することが掲げられました。

しかし、直近の2017年のRUPTL(2017-2026)を見てみると、ジャワ・バリ系統の2020年の電力ピーク需要予測は33,330MWとされており、JICAが2013年の資料で提示した上述の予測値とは約5,400MWも開きが出てきています。これは、電力需要がインドネシア政府の予測ほど伸びてきていない実態を反映したものです。また、同RUPTL(2017-2026)で示されているジャワ・バリ系統の電力供給予備率を見てみると、2015年で31%となっています。さらに、同RUPTLの各予測値から2017~2026年までの電力供給予備率を計算すると、2019年に約60%にまで達し、それ以降は減少するものの2026年まで常に40%以上を維持する見込みとなっています(2026年の電力ピーク需要予測は49,919MW、純設備容量は72,191MW)。こうしたジャワ・バリ系統における電力供給の過剰問題については、インドネシア・エネルギー鉱物資源相やPLNの社長自身も認めています 。

また、PLNの財務状況の観点からも、35,000MW電力開発計画の見直しを求める意見が他のインドネシア政府機関からあげられるようになっています。2017年9月19日付でインドネシア財相が関連政府機関に向けてPLNのデフォルトリスクに関する警告を発した書簡は大きな反響を呼びました 。同書簡では、PLNの債務返済能力等を考慮し、35,000MW電力開発計画に言及しながら、PLNの投資完了目標を調整する必要があるとの見解が示されています。現行の電力開発計画がこのまま進められれば、PLNのデフォルトリスクがさらに高まる可能性があり、国家予算の圧迫に直結するからです。これは、インドネシア国民にPLNの債務返済の責任が転嫁される可能性があることを意味します。

日本政府・JICAは、電力の供給過剰状態が続き、利用されない可能性もある発電所、つまり、妥当性や援助効果に疑問の残る事業に対して借款を供与することには慎重でなくてはならず、同拡張計画に対するE/S借款の貸付をまずは停止すべきです。同拡張計画への貸付をこれ以上実行する前に、また、相手国政府からの要請があった場合に本体工事への円借款供与の検討を始める前に、ジャワ・バリ系統での電力需給の逼迫というJICAが5年前に示した同拡張計画の目的の前提が妥当なものなのか、電力需要の伸びなどの実態も踏まえて検証がなされるべきです。また、同拡張計画への借款を供与することによるPLNの財務状況への影響、ひいては、インドネシア国家予算そのものを圧迫するリスクも考慮されなくてはなりません。
以上、同拡張計画に対し、日本政府・JICAがE/S借款のこれ以上の貸付を行なうべきではなく、また、相手国政府から要請があった場合でも本体工事への円借款供与の検討を行なうべきではないと私たちが考える理由を述べさせていただきました。私たちは、同拡張計画に係るこうしたさまざまな点や現地住民の反対・懸念の声を日本政府・JICAが真摯に受け止め、賢明な対応をとるよう要請します。また、特に同拡張計画に関連して繰り返し起こっている現地での人権侵害については、日本政府・JICAがインドネシア政府側に対して、迅速に、かつ、毅然とした態度で臨むべきであると考えます。

以上

賛同(16団体)
特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)
国際青年環境NGO A SEED JAPAN
ATTAC京都
インドネシア民主化支援ネットワーク(NINDJA)
ウータン・森と生活を考える会
国際環境NGO FoE Japan
ODA改革ネットワーク・関西
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
関西フィリピン人権情報アクションセンター
気候ネットワーク
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン
ジュビリー関西ネットワーク
日本インドネシアNGOネットワーク(JANNI)
特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター(JVC)
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)
メコン・ウォッチ

(※)インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業
2,000 MW(1,000 MW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(1,000 MW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、エンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を2013年3月に締結。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題視された。

本件に関する連絡先

国際環境NGO FoE Japan(担当:波多江秀枝)
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9  Tel:03-6909-5983 Fax:03-6909-5986

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インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画に対する日本の公的支援の停止を求める要請書(PDF)