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インドネシア・インドラマユ石炭火力 公判開始―農地と環境を守るための住民訴訟

7月初めに住民3名が原告となり、「インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画」(※)に対する環境許認可の取消しを求めてインドラマユ県政府を提訴した行政裁判の公判が8月2日に始まりました。

 

 

 

 

 
(写真)バンドゥン地裁前で新規の石炭火力発電所に強い反対の声をあげる住民ら。約100名の農民・漁民がインドラマユから駆けつけた(2017年8月2日。現地NGO撮影)

当日は、約100名の地元農民・漁民がインドラマユ県からバンドゥン市までバスで約3時間の道のりを駆けつけ、初回公判の開始前にバンドゥン行政裁判所の前で抗議活動を実施。農地や漁場が奪われ、健康被害も心配されるとし、新規発電所の建設に強い反対の声をあげました。その後、法廷内では約50名の住民が見守るなか、原告住民側の訴状が読み上げられました。今後、毎週水曜に公判が開かれ、11月頃までには判決が下される見通しです。

同事業の拡張計画については、国際協力機構(JICA)が事前調査・基本設計等をすでに支援し、これから建設のための本体借款の供与を検討しようとしています。しかし、同訴訟で指摘されている環境アセスメントの策定や環境許認可の発行のプロセスにおける不備などの他、事業者であるインドネシア国有電力会社(PLN)が住民の反対の声を押し切ってアクセス道路の工事を強行するなど、地元では切迫した状況が続いています。

 

 

 

 

 
(写真左)農民が工事現場の現場監督に対し、自分の農地での道路工事をしないよう要求したものの、事前通告等はないまま農地にアクセス道路用の土が入れられた。前日に植えたばかりだった苗も土の下敷きとなってしまった。(2017年7月20日。現地NGO撮影)
(写真右)アクセス道路用の土が入れられた農地(写真左)から東側に約70 mに位置する灌漑水路。この水路が工事によって壊されると、この地点より北側の農地には水が回らなくなってしまう。(2017年7月22日。現地NGO撮影)

7月下旬には、同訴訟の原告の一人が、自分が耕作中の農地でアクセス道路の工事を進めないよう要求していたにもかかわらず、地権者への補償支払は完了しているとして、事前通告等は一切ないまま道路用の土入れが行なわれました。前日に植えたばかりだった苗も無残にも土の下敷きとなってしまいました。こうした住民の声を無視したPLNの強硬な姿勢に対し、7月25日には、農民と漁民ら約200名がアクセス道路の工事現場で抗議。「自分たちの生活の糧を奪わないでほしい」と切実な思いを訴えました。

 

 

 

 

 
(写真)住民の事業反対の声にもかかわらず、アクセス道路の建設工事が継続されていることに対し、主にムカルサリ村の農民らが抗議アクションを決行。警察が警備を固めるなか、改めて事業の中止を訴えた。(2017年7月25日。現地NGO撮影)

日本政府・JICAは、日本の政府開発援助(ODA)による被害住民を再び生み出さないためにも、住民の反対・懸念の声にしっかりと耳を傾け、同事業にこれ以上の税金を投じぬよう、賢明な対応が求められています。 また、環境許認可の不当性が争われているという事実を重く受け止めるとともに、同事業への社会的合意形成がないまま強硬に工事を進めようとするインドネシア政府側の姿勢に加担するのではなく、毅然とした態度で臨むべきです。

脚注 ※インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業
2,000 MW(1,000 MW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(1,000 MW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、エンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を2013年3月に締結。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題
視された。

現地NGOのプレスリリース(和訳)(原文はインドネシア語)

プレスリリース
2017年8月2日(水)

農地と環境を守るため、
住民がインドラマユ石炭火力発電所・拡張事業の環境許認可に関して提訴

バンドゥン発――農地275.4ヘクタールの収用を伴うインドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(1000 MW ×2基)の影響を受ける100人余りの農民、漁民らが、バンドゥン行政裁判所(PTUN)前を満たしました。住民らが訴訟を起こした理由は、大気汚染が悪化し、彼らや子供たち、事業地周辺に暮らす他の住民の健康リスクが増大する恐れがあるためです。また、原告らは、同拡張計画の建設のために地権者が農地を売却してしまったため、家族を扶養してきた彼ら自身の生計手段を失ってしまいました。

インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画の環境許認可は2015年に発行されましたが、住民らが同許認可について知ったのは、インドラマユ県環境局に彼らが書簡を送付した後の2017年6月12日になってからのことでした。「影響住民であるにもかかわらず、私たちはこの間、環境許認可の発行について何も情報を得ておらず、また、参加の機会もありませんでした。」と抗議行動のコーディネーターを務めるアブドゥル・ムインは述べました。

インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ州の提言担当であるワヒューディン・イワンによれば、2010年に既存のインドラマユ石炭火力発電所の稼働(訳者注:試運転の期間を含む)が始まって以来、海洋・大気汚染が増大したとのことです。環境管理・モニタリング報告書(RKL-RPL)の結果によれば、2010年から2016年の期間中、既存の同発電所は亜鉛、銅、カドミウムといった5つの重金属、および、フェノールという1つの化合物の海水質基準を超えていました。これは、既存の発電所の操業後、初期のベースライン状況にすでに変化が生じていたということを示しています。一方、拡張計画の環境アセスメント(AMDAL)は既存の発電所が操業する以前の2010年に準備されました。つまり、AMDALは現在のベースライン状況を考慮していないため、もはや利用できないことを意味します。

また、すでに無効な法規定が言及されています。たとえば、すでに2015年2月に無効とされている水資源法(2004年法律第7号)や、2014年政令第101号によってすでに代替されている有害廃棄物の管理に関する政令(1999年政令第18号)があげられます。こうしたことは、同許認可が不注意の下、また、欠陥のある法規定を下に発行された証左ですと、ワヒューディン・イワンは述べました。

既知のとおり、石炭火力発電所はより多くの温室効果ガスを排出します。国際協力機構(JICA)の『インドラマユ石炭火力発電所のための準備調査』(2010年)によれば、同発電所1基(1,000 MW)のCO2排出量は年間5,749,200トンとされています。CO2排出量は、効率性の技術や石炭の種類等によっても変わりますが、インドネシア政府のエネルギー部門における新規石炭火力発電所の建設方針は、温室効果ガス排出削減をコミットした政府方針と矛盾します。

「気候正義のための提言チーム」のウィリー・ハナフィ(インドネシア・リーガル・エイド協会バンドゥン事務所所長)は、インドラマユ県知事が2015年5月26日付でインドネシア国有電力会社(PLN)第8ユニットに対して発行した西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業の拡張計画(1000 MW×2基)に係る環境許認可(No. 660/ Kep. 51 A-BLH/2015)には多くの違反が見られると述べました。まず、同環境許認可が、AMDALは依然として改善/改良されなくてはならないという、環境アセスメント評価委員会の合意文書に基づき発行されている点を指摘しています。

第二として、(環境許認可に関する)2012年政令第27号、および、(環境アセスメント住民参加および環境許認可に関する)2012年環境大臣規則第17号に規定されている異議申立ての要請、提出のプロセスに住民が参加・関与していないという手続き上の不備があることが疑われています。第三として、AMDALの文書自体に法的欠陥や誤り、文書や情報の誤用があり、相当な欠陥を孕むものとなっています。AMDALは2010年に準備されましたが、環境許認可は2015年に発行されました。これは、環境に係る分析が有用なものでなく、適切な分析が示されたものでないことを暗示しています。

初回の公判では、影響住民の前で訴状が読み上げられました。住民らは公判の内容を直接聞き、立ち会うためにインドラマユから(バンドゥンまで)やってきました。そして、住民らはインドネシア政府による彼らの地元での新規の石炭火力発電所の建設計画に強い抗議と反対を示しました。

連絡先:
地元住民
インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ
気候正義のための提言チーム