インドネシア・バタン石炭火力 住民が異議申し立てに来日-記者会見から公開セミナーまで-

2015年7月28日から8月2日まで、インドネシア・中ジャワ州バタン県から、石炭火力発電所の建設に反対する現地住民3名と彼らを支援している現地NGOスタッフ2名が来日しました。異議申立書の提出、記者会見、セミナーと続く彼らの1週間の活動を報告します。

バタン石炭火力発電所建設事業の裏で

バタン石炭火力発電事業は、日本の官民が連携して建設計画を進めていますが、現地住民の強い反対運動により3年間、建設開始が延期になっています。農地や漁場などの生計手段の喪失および環境への影響などを懸念する住民の反対運動に対し、インドネシア国軍や警察等の暴力・脅迫・不当逮捕などの人権侵害も報告されている中、住民たちが来日し、日本の関連政府機関へ異議申立書を提出。事業の問題点を指摘し、本事業の中止を求めました。

 活動報告

 ■7月29日 記者会見・異議申立書の提出

記者会見には10数名のメディア関係者他が出席し、土地収用を拒否している農民(地権者)2名と漁民1名の生の声に耳を傾けてもらいました。建設予定地はコメの三期作が可能なほど豊かな農地であること、同様に豊かな漁場も本事業による悪影響が懸念されていることなど、住民たちの訴えは多岐にわたります。住民の発言の後に記者から用地売却についての質問などが寄せられましたが、住民から直接聞かなければわからないことも多くありました。このような現地の状況を日本の関連政府機関・企業がどこまで把握できているのかは疑問です。

<記者会見風景>
 
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午後には、住民を代表して来日した3名が日本の国会議員3名の立ち合いのもと、国際協力銀行(JBIC)と『経済協力開発機構(OECD)多国籍企業行動指針』日本連絡窓口(NCP)に異議申立書を提出しました。申立書では、本事業活動の差し止め、本事業が環境や地域社会に与える影響の精査、そして、問題への適切な対処が求められています。申立書を受領したJBICの担当者は「まだ融資を決定した段階ではないが、申立書の内容を理解して融資の検討をしたい」と返答しましたが、日本のインフラ技術の輸出の影で起きている環境・社会・人権問題に対し、日本の官民が真摯に対応することが強く求められています。

<申立書提出:左上)JBICへの申立提出、右上)NCPへの申立提出、左下)申立てを受けて返答するJBIC担当者(奥3名は立ち会った国会議員)、右下)申立後、記者団の質問を受けるJBIC担当者
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申立書本文(英文)、概要(和文)はこちらをご覧下さい。

 ■7月30日、7月31日 JBIC前、伊藤忠前での街頭アクション

7月30日の朝は大手町の国際協力銀行(JBIC)前で、翌31日の朝は青山の伊藤忠商事(株)の本社前で、出社してくる社員に向けて「日本からの石炭火力発電所事業への融資を撤退して下さい」「石炭火力発電建設からバタンの豊かな農地と海場、住民の生活を守って下さい!」と訴えると共に、チラシ配布を行いました。真夏の青空のもとに響いた、開発事業撤退を求める住民の声。日本政府やJBIC、伊藤忠、電源開発(J-POWER)などの関連各社のこれからの動きにも注目です。

<アクション:上段)JBIC前、下段)伊藤忠前>
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 ■7月30日、8月1日 院内勉強会・公開セミナー(東京、京都)

30日午後は参議院議員会館にて、日本のインフラ輸出における人権・環境配慮が十分に行われているかを論点として、バタン県での石炭火力発電事業の問題や日本が融資した既存の石炭火力発電事業の現状を報告しました。ここでは異議申立書の記載事項に踏み込んだ質問も寄せられ、現地の事業実施主体ビマセナ・パワー・インドネシア社(BPI)*が泥沼化した土地収用につき、2014年に不可抗力条項の適応を通達するに至っている事にも話が及びました。
30日夜には法政大学(東京)、8月1日にはひと・まち交流館(京都)にて、より広い対象の方々に向け、現地住民からの声に加えてJBICの環境社会配慮や日本企業の海外事業における人権問題への対応策についての説明が行われました。また、インドネシアでのエネルギー需要が今後増加することも予想されていることから、再生エネルギーの利用についても質疑が出され、NGOスタッフからインドネシア政府に再エネの開発を進めるように提言しているとの応答がなされました。
勉強会、セミナーともに、住民の方々が現地での問題や苦労を切実に語ってくれました。現地住民の生活を踏みにじり、地元で強く反対されている事業に何故日本は投資を続けるのでしょうか。
* 電源開発㈱(J-POWER)34%、アダロ・パワー社(アダロ)34%、伊藤忠商事㈱(伊藤忠)32%の3社が設立した現地法人

<勉強会&セミナー風景>
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勉強会の発表資料はこちらからダウンロードできます。
セミナーの発表資料はこちらからダウンロードできます。

 住民の訴え 深刻な人権侵害も

  • 石炭火力発電所の建設予定地となっている農地はコメの三期作が可能なほど肥沃な土地であるが、強制的な土地収用が進んでおり、現在も土地売却を拒んでいる住民の土地にはインドネシア国軍が重機で盛り土を築き、灌漑用水が供給されなくなるなどの嫌がらせが行われている。生計手段が奪われている状況だが、先祖代々から受け継いだ生活の糧である農地を手放す気はない。
  • 石炭火力発電所の建設計画の一環で浚渫や埠頭の建設が行われることにより、豊かな漁場に悪影響が出ることが懸念される。さらに、海洋投棄が行われる海域は海洋保護区であったのに、保護区を移動させてまで工事が進められようとしている。インドネシア国内で石炭火力発電所が建設された他の場所では、海洋環境の破壊により漁獲量が激減したり漁業ができなくなったりと実害が明らかになっている。
  • 反対派住民に対するチンピラによる脅迫や恐喝、治安当局による不当逮捕・拘禁などが横行しており、今回来日した住民の1名は、刑務所に収監された7名のうちの一人。彼自身は7か月間も収監されていた。釈放された今でも、逮捕の理由は理解できないもので、最高裁の判決文も自分には届けられていない。
  • 反対派住民に対する嫌がらせが日常的に行われており、チンピラに自宅を囲まれたり、インドネシア国軍によって農地の四方に盛り土をされて灌漑水路を妨害されたりしている。盛り土の説明と水供給への対処を求めても、道路整備などと適当な理由を言うばかりで改善されない。
  • 反対派漁民への漁具の補償などは一切ない。仮に補償措置を申し出られたとしても、自分たちは受け取らないと決めている。
  • 本事業はインドネシア企業と日本企業による民間事業にも関わらず、土地の整備にはインドネシア軍が動いており、未売却の地権者への嫌がらせも。土地の売却拒否者に対しては、政府による強制収用を認めた土地収用法(2012年第2号)を適用するとして脅迫・圧力が高まっている。警察は住民を守るどころか、不当逮捕に関与したり、土地売却を強要するなど住民の生活を脅かしている。
  • インドネシア国軍や警察による圧力が横行しており、明らかな人権侵害が行われている。

 

<窮状を訴える現地住民たち
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質疑応答より抜粋

Q. 軍の関与は明らかなのか
A.  インドネシア国軍は制服を着ており身分を隠してはいない。重機には国軍工兵総局を示す「ZENI AD」の印字も確認できる。ただ、JBICが環境レビューの一環で現地踏査を実施した際、踏査の2日前から軍による整地作業は停止され、現在も止まっている。重機は農地に置かれたまま。

Q. 不当逮捕について
A. これまで、事業に反対する7名の住民リーダーが刑務所に収監されたが、身に覚えのある住民は一人もいなかった。そのうち2名の住民リーダーが収監されたケースでは、地裁、高裁で無罪だったにもかかわらず、地方政府高官による「事業に賛成すれば高値で土地を買う」という申し出を拒否した結果、最高裁判決で7か月の収容となった。

Q. チンピラ(プレマン)の資金源は
A. 村々の住民や不良を組織化している。前バタン県知事の関与と資金供与が疑われているが証拠はない。プレマンによる脅迫や恐喝などは毎年10月の融資調達期限が近づくと激化する傾向がある。BPIがお金を出しているとの話もあり、圧力をかけた住民が土地の売却に応じた場合、土地の売却価格の5%の報酬が受けられるなど、プレマンの不当な活動を煽っている。

Q. 用地収用の状況は
A. 用地の多くが既に買収されているが、20ha程度(約9-10%)が未収用。様々な圧力を受けて売らざるを得なくなった住民も多い。さらに用地買収金額が上がり、売却当時との差額補償を求めている住民もいる。未売却の住民は、政府による強制収用を認めた土地収用法(2012年第2号)が適用されることによって補償金が変わる(支払われなくなる)ことも恐れている。国の公共事業に対して適用されるべき土地収用法が民間事業である本件に適応されること自体がおかしいのに、きちんとした説明はない。

Q. ジョコ・ウィドド大統領の立場は
A. 大統領は同じ州内のソロ出身。大統領には土地収用が終了しているとのガセ情報が届いていたことなどから、正確な情報が伝わっていないと思われる。

Q. JBICは現地調査を実施したのに何故住民に会わなかったのか
A. 2013年7月、JBICは融資の検討を始めた直後に現地踏査を行ったが、住民との対話は行わなかった。2015年5月に現地踏査を行った際にも、現地でアレンジされた村長との面談はあったものの、反対派住民と直接対話する機会は持たれなかった。住民からのレターには返答がなく、今まで無視されていた状況だったため、今回、反対派住民から異議申し立てを行うこととなった。

Q. 何故バタン火力発電所だけが大きな問題になっているのか
A. インドネシアにはバタン以外にも数多くの発電所が存在しているが、1998年までのスハルト大統領政権下に建設されたものについては、政治的抑圧下で反対意見を表明することはできなかった。実際に発電所が建設され、2008年以降に発電所が稼働を始めてから問題が表面化してきたが、そのころになると政権も変わっていたので発言できるようになった。そのような時代背景もあってバタンで大きく声が上がっている。バタンは、①住民が団結して、②自発的に行動を開始していること、➂発電所の計画段階から人権侵害を含めた問題が多発している上に、④新たな石炭火力発電所を建設することは石炭から脱出しようとしている世界の流れに逆行している、ことから他のインドネシアの発電事業より大きく取り上げられている。

Q. 土地を売却した住民はどうなったのか
A. 土地価格の値上がりによる売却差額の補償をBPIに求めている住民もいるが、対応されていない。多くは農地を失って失業状態にあるが、売却した後でも自分の農地がそのままになっている住民の中にはそこで耕作を行って生計を立てている住民もいる。

Q. インドネシアの今後のエネルギー需要と、再生エネルギーの利用についてはどう考えるか
A. インドネシアは発展途上国なので電力需要は増えると見越されるが、豊かに暮らしている住民を犠牲にして開発を進めているからバタンの火力発電所建設には反対している。インドネシアには自然エネルギー資源が豊富なので、NGOからはインドネシア政府に化石燃料に依存しない再エネの開発を進めるべきと提言している。技術力のある日本企業やJBICのような組織が石炭に融資してしまうのは残念。現状のままでは再エネは5%以上に伸びないので、再エネ拡大に向けた施策が必要。

住民たちは今回の来日中、異議申し立てや企業との会合、関連企業前でのアクション、東京と京都でのセミナーを通して現地での問題と要望を表明しながら、この問題の多い石炭火力発電所事業への投資・融資を早々に撤回して欲しいと訴え続けました。彼らの問題は日本の大型インフラ輸出の拡大方針に密接に関係しています。私たちは「日本企業の高い技術力」の輸出という名目に隠された事実を直視し、もっと将来的に持続可能な、地域社会・地球にやさしい支援に転換していくべきではないでしょうか。日本の「高度技術」インフラ輸出が何を引き起こしているのか、このまま世界の流れに反する石炭発電事業を国内外で続けて良いのかを考えるきっかけとなれば幸いです。

<参考>

記者会見関連記事

  • 2015.7.29 ソーシャル・イノベーション・マガジンalterna(オルタナ)「日本参加の石炭火力計画で人権侵害 インドネシア・バタン住民が来日」
    2015.7.29 17:08 産経ニュース「住民がJBICに異議申し立て インドネシアの石炭火力」
  • 2015.7.29 17:08 Bloomberg「インドネシア石炭火力建設計画、現地住民がJBICに異議申し立て」
  • 2015.8.6 レイバーネット 「石炭火力発電事業から、農地と海を守れ!〜インドネシア・バタン県の地元住民の闘い〜」
  • 2015.7.30 NNA.ASIAインドネシアの経済ビジネス情報「住民が銀行に異議申し立て、ジャワ島の石炭火力」(有料サービスなので、購読には登録が必要です。)